A. 連載童話

冒険教室

2011年7月 7日 (木)

86-耳の活躍。

え、どうして知ってるの?
驚いたのはこどもたちばかりではありません。
ヒーゲル先生もリカ機関長もパックさんも、ワタリノフ航海士とさかさになったラムネド王子をいっせいにながめました。
ラムネド王子の顔がみるみる青ざめていくのがわかります。
「お、おまえは何者だ。ぼくを殺しにきた空の一族の者か?」
王子の声が震えています。
ワタリノフ航海士はそれには答えないで、ヒーゲル先生たち大人だけを手招きし、少し離れたところに集めました。

こどもたちは大人たちが何を話しているのか気になりましたが、小声で話しているので聞き取ることができません。
「なんか気になるよな」とトビーが言うと、
「変よね」と、とコロンも大人たちのようすが気になっています。
「そういえば、飛行船を降りるころからカケローニ先生のようすもいつもと違っていたわ」
ラムネド王子を背負ったハーネルが、トビーとユキの顔を見て目で何かを伝えました。
トビーとユキもハーネルが何を言おうとしたかすぐにわかりました。
二人とも目でうなずいただけで一言もしゃべることはありません。
そのときハーネルがコンラッドに、ラムネド王子の足に巻いた葉っぱのぐあいをみてほしいと大きな声でたのみました。
86「ツルがほどけかかっているみたいなんだよ」
「え、さっき見たけど大丈夫だったぜ」と言うコンラッドを、コロンが腕をひっぱてハーネルの背中側に連れて行きました。
コトとポンゴもハーネルの周りに集まってきました。
みんなもハーネルが何を言おうとしたのか気づいたようです。
チュチュはさかさまになっている王子の顔と向かい合って、もう痛みは楽になった?と心配そうに聞いています。
トビーとハーネル、ユキ、三人の耳がワタリノフ航海士たちのほうに向けられていることに大人たちは気づいていないようです。

〈自分が先ほど手に入れた新しい情報では・・・〉
小声だけどよくわかるぞ。ワタリノフ航海士だ、とトビーは心の中でつぶやきました。
〈彼ら・・・アンブレロッサ王国の一団が、ものすごい数でもうすぐこの島にやって来る。そしてその目的はもちろん浮きガス祭りの見学ではないらしい〉と、そんな内容です。
〈それが例の“空で起こるかもしれない不穏な事態”の正体ってこと?〉
今度はリカ機関長の声だ。パックさんが浮きガス増産計画、とかなんとか言ってるぞ・・・。
トビーはさりげなくユキのほうを見ましたが、ユキも〈ちゃんと聞こえているわよ〉と言うように、少しうなずいてみみせました。
ふおんな事態・・・って、どんな事態なんだ?
ハーネルも大人たちの声を聞き取っていますが、意味がよくわからないようです。
どっちにしろあまりいい状態じゃないってことだよな、これは・・。
〈この二つのことが一つにつながっておるとしたら・・・とにかく早く飛行船に戻って、これからのことを船長たちと話し合わにゃならんな〉
〈時間がない、ぐずぐずしてはいられませんよ〉
ワタリノフ航海士のこの言葉で立ち話は終わり、大人たちはこどもたちのところに戻ってきました。

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2011年5月25日 (水)

85-好奇心。

ハーネルの背中にさかさに負ぶわれているラムネド王子ですが、もともと足を使ってさかさまにぶら下がる姿が基本姿勢のコウモリ族なので、かえって王子本人は先ほどのおんぶよりずっと楽だと言っています。
ただ、周りで見ているこどもたちの目には、ハーネルとラムネド王子のその姿がとてもおもしろく映っているようで、チュチュやコロン、ユキたちはくすくす笑っています。

「ぼくの母たちが、浮きガスダンスコンテストが始まるころに会場にやってくるんだ。それまでにそこに行かなきゃならない。
ぼくは母に内緒で、一人で先にここに来てしまったから・・・」
「じゃが、凶暴だと聞かされておったこのマングラップ島に、どうして一人でやって来なされたのかの?」
ヒーゲル先生は、王子という身分の者がたった一人でここにいるということが、どうにも気になります。
「見てみたかったんだ、自分の目で。国の言い伝えではなく、マングラップ島の住人のいまの姿を。
これまでも何人かの者たちが、夜の間にこっそりこの島にやってきたことがあるんだ。本当は王国の規律違反だけど。ぼくたちは“羽のある”陸の種族だからね。このくらいの距離なら海を渡るのはなんでもない」

85そんなことを話しているところに、ワタリノフ航海士がリカ機関長とパックさんを連れてやってきました。
それに気づいたハーネルの目がワタリノフ航海士の目と合ったとき、ワタリノフ航海士が
ハーネルに向かって言いました。
「おやおや、君のお騒がせ病がほかの子たちにも伝染したみたいだね」
冒険授業初日の飛行船内見学ツアーで、浮きガスを吸い込んで騒ぎになったことを言っているんだなとハーネルにはわかりました。
「ワタリノフさん、そんな古いことを・・・・」
「ドクターヒーゲル。なぜこどもたちがここにいるとわかったんですか?」
パックさんは、ヒーゲル先生が迷うことなくジャングルのほうに駆け出していったことが不思議でなりません。
「簡単なことじゃよ。ほれ、君の大発明に乗ったとき、こどもたちが熱心にどこを見ていたかを思い出したんじゃよ。
これまで見たこともない密林を見て、そこに行ってみたいと思わないこどもはおらんと思うてな」
とくにこの子らはな。じゃろ?と、ヒーゲル先生はこどもたちの方を見てウインクして見せました。
浮きガスの樹に関する講義をして先生の気分を味わったリカ機関長は、先生という職業の奥深さをあらためて感じました。
そしてカケローニ先生がここにいないことが少し残念でした。

「それはそうと、ハーネルが背負っているそのこは・・・・」
と、リカ機関長がこどもたちに聞こうとしたとき、ワタリノフ航海士がハーネルの後ろに回ってラムネド王子の顔を覗き込みました。
「アンブレロッサの子だね」


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2011年5月18日 (水)

84-ラムラム諸島。

「いやみごとなもんじゃ。この応急処置のおかげで、直りが早いじゃろ」
傷口を調べたヒーゲル先生はコトとコンラッドを大いに誇りに思いました。
「コトが集めたチドメグサはマホロバニカにあるものとは少し種類が違うが、効果は同じじゃ。コトのおばあさまに感謝せにゃならんな。
そして君はこの子らに感謝せんとな」
とラムネド王子の羽のある腕に手近な枝木を当てて捻挫の手当てもしました。
そしてことの成り行きをこどもたちから聞いたヒーゲル先生はラムネド王子に、なぜここにお一人でおられたのかな?と、ちょっとあらたまった口調で質問しました。

「向こうにある浮きガスの樹のガスを直接吸い込んで、気持ち悪くなってふらふらと漂ってたら、ここに落っこちてしまったのだ。
ここの浮きガスは“浮かない”って聞いてたのに・・・」
「それは災難でしたな。じゃがそうではなくて、王子であるあなたがお供のものもつけずに、お一人でいらしたかということをお話くださらんかな? もし、よろしければじゃが」
最初王子は自分の口からその理由を話すのをためらっていましたが、ハーネルに〈そもそも王子ってのが作り話じゃないの?〉と言われたのが気にさわったのか、何かを決意をするような顔をして話し始めました。

そのときワタリノフ航海士は、こどもたちとヒーゲル先生が一緒にいるところを空の上から見つけたので、大急ぎでリカ機関長とパックさんを呼び戻しに、浮きガスの樹林に飛んでいきました。

84ラムネド王子の話したことによれば、自分はアンブレロッサ王国のただ一人の王位継承者で、アンブレロッサは苗字であると同時に国の名前であり島の名前でもあるようです。
アンブレロッサのあるラムラム諸島は、マングラップ島から西に少し行ったところにあります。
もともとラムラム諸島はマングラップ島も含めて“インデナイカ”という国に所属していましたが、700年ほど前に王国としてインデナイカから独立をしました。
それはコウモリ族が、インデナイカの陸の種族からは“羽のある陸の種族”として、鳥族たちからは“卵を産めない空の種族”として、両方の種族から迫害され続けていたからだそうです。
マングラップ島のコウモリ族と一部の陸の種族だけが、ラムラム諸島に移り住み独立してできあがった国、それがアンブレロッサ王国だということがわかりました。

これまで周りの者たちから、マングラップ島の住人は凶暴で、ラムラム諸島の者たちを見ると殺すか、ぼこぼこに殴る、そんな話しか聞いたことがなかったので、最初トビーたちを見たときは本当に殺されるのかと思って怖かったのだそうです。
威張っていたのは怖かったからで、でも、彼らがマングラップ島の者ではなくてマホロバニカからやってきたこどもだとわかったので少し安心し、いまはけがの手当てをしてくれたことに感謝しているとも言いました。
〈王国の教育係の話では、マホロバニカでは陸の種族も空の種族も、そして羽のある陸の種族もみんなが仲良く暮らしていると聞いている。だから自分も一度行ってみたいものだ〉とみんなを見回しながら言いました。

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2011年5月13日 (金)

83-王子?。

「へぇ、こいつお礼が言えるんだ。でもユキ、なんでおまえがそんなこと知ってんの?」
「さっき研究所で助手の女の人がそう言ってたよ、ハーネルキャプテン。
部屋にもポスターが張ってあったじゃない」
「そうだった? おれダンスってあんまり興味ないからぜんぜん気づかなかった。
え、みんな知ってた? そう。ポンゴ、おまえも? ふ~ん。
で、ラムネ王子、ひょっとしておまえも出るの?」
「何度言ったらわかるんだ。わが名はラムネドだ! おまえのでかい耳は飾りでついているのか。
ぼくがダンスコンテストに? 出るわけないだろ」
「く~っ、そんなことおれらにわかるかよ。出るか出ないかなんて。単なる見物ならおれも一緒だから連れてってやるよ。いまから行けばじゅうぶん間に合う。
さあ、おれに負ぶされ」
ハーネルはいやいやながらでしたが、ラムネド・・・王子に自分の背中を貸そうとしました。
この意外な展開に驚いたのはラムネド王子ではなく、ほかのこどもたちでした。
コンラッドの、〈ハーネル、君のことがときどきわからなくなるよ〉という言葉に全員がうなずき、トビーまで本当に双子か?と疑ったほどです。

83「いや、君の好意はありがたいが、ぼくは自分で行ける。けがをしてるのは足であって、羽ではないから」
とラムネド王子は座ったまま羽を広げました。
震えはおさまってきたようです。
でも、痛い!と言ってまた樹の根元にうずくまってしまいました。
どうやら痛めたのは足だけではなさそうです。
腕も捻挫していることがわかり、王子のほうもいやいやながらですが、ハーネルの背中を借りなければならなくなりました。
「だろう。最初から素直に負ぶさっとけばよかったんだ」
勝ち誇ったようなハーネルに、王子は〈断腸の思いだ・・・〉とつぶやきました。
でも残念ながらハーネルにはその言葉の意味がわかりません。

「ハーネル。傷口が心臓より下にあるのはまずいぞ。背負うならさかさまにしたほうがいいじゃろう」
声をかけたのはヒーゲル先生でした。
「白ヒゲ先生! こんなに先生に会いたいと思ったのは初めてです!」
ハーネルの目にうっすら涙がにじんできました。
みんなはいっせいにヒーゲル先生の元にかけ寄りました。
ヒーゲル先生はこどもたち全員の無事な姿を確認して、とても嬉しそうな目をしました。

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2011年5月 9日 (月)

82-ラムネド。

「おまえたちはだれだ?」
おびえるように樹の根元に寄りかかって座っているコウモリの子を、囲むようにして座っているマホロバニカのこどもたちです。
「なんで君・・・おまえは震えてるくせにそんなに偉そうなんだ。だいたいおまえこそだれなんだよ」
ハーネルは彼の態度にかなり頭にきているようです。
「人に名前をたずねるんなら、まず自分が名のれよ。
だいたい、けがをしてのびてるところを助けてもらってそんな口をきくか?
傷の手当までしたんだ。感謝しろよ」
「望んで手当てをしてもらったわけではない。それに手当てをしたのはおまえでなく、そこのキツネと、オコジョだ。
さらに言うなら、最初ぼくを運んだのはおまえではなかったぞ。おまえとそっくりのもう一人のウサギだ」
「うぅ。こいつよく覚えてるぞ」
「もうよせハーネル。頭のほうも打って、ちょっとおかしくなってるのかもな。
おれはトビー、こいつはおれの弟でハーネル。それから・・・あとは各自でどーぞ」
と言ってコンラッドを見たので、
「・・・コンラッドだ」
「ぼくはポンゴ。最初に君が倒れてたのを見つけたのはぼくなんだよ」
「あたいはコト。傷はまだ痛か?」
「わたしはコロン」
「わたしはチュチュ。バレリーナになるのが夢・・・あ、それはいいか」
「ユキよ。全員マホロバニカからやってきたのよ」
「え?マホロバニカ? 本当か?」
おびえているような男の表情が少しやわらぎました。

82「で、おまえ・・・あなたさまはどなたで? 王様」とハーネルはいやみな言いかたをしてみました。
「ぼくは王様じゃない」
「わかってるよ、そのくらい。言ってみただけ」
「ぼくは王様じゃない。王子だ」
はあ?・・・・とハーネルは大げさに耳に手を当てています。
「ラムネド。アンブレロッサのラムネド王子だ。傷の手当てと介護に・・望んだわけではないが・・その・・感謝する」

「まじかよ」とつぶやくトビーに、
「んなわけないじゃん。からかってんだよ、おれたちを」とハーネルはラムネドと名のったコウモリの男の子に聞こえるように言いました。
「どこまでも無礼なやつだな、おまえは。だがいまは許そう。
ときに、浮きガスダンスコンテストはもう始まっているのか?」
「おれたちに聞いてる? あのなあ、おれたちは今朝ここに着いたばかりで、祭りのことは知ってるけど、ダンスコンテストのことなんて・・・」
とハーネルが言うのをユキがさえぎって
「まだよ、ラムネ王子。日が落ちてから始まるって聞いてるわ」
「ラムネド王子だ。ラムネではない。だが・・ありがとう」

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2011年5月 6日 (金)

81-わがままな患者。

「ううっ・・」
トビーの背中でコウモリの男の子が、しぼり出すようにうめき声を上げ、うっすらと目を開けました。
「気が付いたかい? もう大丈夫だよ」
「ここはどこだ?・・・おまえたちはだれだ?」
声に力がありませんが、なんだか偉そうな言い方です。
「ぼくに何をしている。・・・足が痛いぞ。ぼくを降ろしたまえ・・・」
「ダメだよ。足をけがしてるんだから」
トビーがそのまま歩いていくのでコウモリの男の子はトビーの耳をぐいっと引っ張りました。
「いてっ! おいおい、むちゃするなよ。君を落っことしちゃうじゃないか」
「ぼくを降ろさないからだ」
このコウモリの子はわがままなようです。
トビーが立ち止まったので、ほかのこどもたちも二人の周りに集まってきました。
「どうしたの?」
ユキがトビーにたずねました。
「下に降ろせってきかないんだ。こいつけがしてるくせにおれの耳を引っ張るんだぜ」
トビーは少し腹が立ってきたみたいです。
「あら、この子の足から血が流れ出してる!
一度降ろして傷のぐあいをみたほうがいいんじゃない?」
しかたなくトビーは男の子を草むらに寝かせました。
トビーたちを見て男の子はとても怖がっているように見えます。

81「これを塗るとよかよ」
いつの間に摘んだのか、コトの手には血を止める効果のある草や葉が握られていました。
「あたしん育ったサクラ岬の森に、これとよく似た葉がいっぱいあって、けがをしたらあたいげのばあちゃんがよく塗ってくれたとよ」
「よく似た葉っぱ・・・って、大丈夫?」
「こことよく似たぬっかとこ(暖かいところ)じゃっで、おんなじじゃっ」
ハーネルやコンラッドの心配をよそに、コトは近くにあった棒切れと石を使って、もう葉っぱをたたいたりすりつぶしたりしています。
「だれか、傷口に当てる葉っぱを採ってきてくいやんせ」
するとコンラッドが、これでいいかな?と、しばるためのツルも一緒に持ってきました。
「おまえたち、それは本当に大丈夫なものなのか? そこの女子、おまえは本当にくすしの心得があるのか?」
コウモリの男の子が一番心配顔をしています。
“くすし”という言葉の意味がわからなかったこともあり、コンラッドはまったく聞こえないふりをして、コトから受け取ったすりつぶした薬草を傷口に練りはじめました。
「怖がらんでもよかよ」
「うわーっ! もっとそうっとやれ・・・痛いぞ・・」
「うぜらしか(うるさい)。 静かにしやんせ!」
コトがピシャリと言いました。
コウモリの子にコトの言葉が理解できたかどうかはわかりませんが、口をつぐんでくれたので、コンラッドはなんとか大きな葉っぱを包帯のように足に巻くことができました。
「あんたうまいわねぇ」とユキがコンラッドの手元を見つめているので、
なあに、足を骨折したとき、ヒーゲル先生が包帯を当ててくれるのを見てて覚えたんだと、コンラッドは照れくさいのでちょっとすまして振り返りました。


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2011年4月27日 (水)

80-捜索。

そのころ浮きガス研究所では、リカ機関長が浮きガス増産計画に関する詳細を聞きだすことができ、話し合いは一段落しました。
でも研究員助手がいまごろになって、こどもたちだけで外出をさせたことを報告に来たので、ヒーゲル先生が大変困っていました。
パックさんやトブカ所長があやまり、研究員助手に怖い顔をしています。
「彼女をせめるわけにもいかん。彼女一人にこどもたちをまかせっきりにしてしもうたわしが悪いんじゃから」
「おれとリカですぐ捜しにでかけますから、ドクターは心配しないでしばらくここで帰りを待っていてください」
パックさんはリカ機関長を連れて所長室を出ていきました。

「もうすぐ日が暮れる。急ごう」と二人が浮きガスエレベーターに乗り込んだとき、風を切る音がしたと思うと、ゴンドラの手すりにワタリノフ航海士が立っていました。
「テツヤーノ! いいところに来てくれたわ」
エレベーターはもう下がり始めています。
ちょっと驚いた顔をしているワタリノフ航海士を、リカ機関長はパックさんに紹介し、いまからこどもたちを捜しにいくいきさつを大急ぎで話しました。
黙って聞いていたワタリノフ航海士は
「なるほど。実は例の件に関して興味深いことがわかったので、ピット船長たちに報告して、それで君たちを呼び戻しに来たんだ。
自分も空から捜索を手伝うよ」
地上につくと、なんとそこには所長室にいるはずのヒーゲル先生が待っていたではありませんか。
80「遅かったのう」
パックさんが何か言いかけたのを片手を挙げて制して、ヒーゲル先生が続けます。
「いや、君らの言いたいことはわかっておる。
わしがカモシカ族だということを忘れておらんかね?
急勾配(こうばい)の下り斜面を降りるのはわしの得意中の得意なんじゃよ」
「まさに・・・そのようですね、ドクター」
尊敬の念をこめてヒーゲル先生を見つめなおす三人に向かって、
「わしの大事なこどもたちじゃ。じっとしておられんのじゃ。さあまいるぞ」
と言ってすぐさま研究所の裏へ向かっていきました。
パックさんが、そっちには道はありませんよドクター、と呼び止めたのですが、すでにヒーゲル先生の姿は見えなくなっていました。
「やれやれ、ミイラ取りがミイラにならなきゃいいけど・・・」とつぶやき、リカ機関長とパックさんは浮きガスの樹林に、ワタリノフ航海士はふたたび空に、それぞれ別れて出発しました。

     ●

カズラモドキを両腕に抱えなおして立っているコロンを、いったい何が起きたんだという顔をしてみんなが見ています。
「殺してないわよ。気絶してるだけだから」とコロンは言って、少し離れた草むらにトカゲを置いて戻ってきました。

「どんな手品を使ったんだ・・・?」
「やっぱりクマ族ね。すごい力だわ」
驚くみんなにコロンは、これはいわゆる力じゃなくて、“勁力(けいりょく)”といってわたしがチュイナンから来た拳法の先生から学んでるものだと説明しました。
「拳法のことはまた今度にして、それよりいまはそのコウモリ族の子の手当てを急ぎましょう」
「コロンの言うとおりだ。まず、かまれて足に付いたそのドロッとした液を、そこの川で洗い流したほうがいいね」
ポンゴとコンラッドがコウモリの子を抱えて連れてゆき、そうっと手で水をかけて洗いました。
「よし、すぐ浮きガス研究所に戻ってヒーゲル先生に診てもらおう」
おれとハーネルが交代で背負うからと、トビーがまずその子を背負いました。


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2011年4月25日 (月)

79-コロンの技。

「あそこだ。だれか倒れてるよ」
「足に何か付いてるわ」
「さっきの食虫植物みたいなものだぞ」
ポンゴが駆け寄って抱き起こしましたが、気を失ってぐったりしています。
みんなもその周りに集まってきました。
「だれかしら?コウモリ族の男の子みたいね。わたしたちと同じくらいだわ」
「トゲトゲ植物に足を突っ込んじゃったのかな」
そう言いながらコンラッドがそれに触れると、突然その植物のようなものが動き出しました。
「わあーっ、何だこれ!?」
その子を抱きかかえているポンゴは足に付いているものを見るなり
「それは植物じゃない! トカゲだ。トカゲが食いついてるんだ! 早く取らないと!!」
とコンラッドに、気をつけて引き離すよう言いました。
「引き離すって・・・どうやって?」
後ずさりし始めているコンラッドに、
「そんなことぼくにわかるわけないよ。とにかく早く何とかしないと」
一時的に体を麻痺させる麻酔のような液が牙から出るけど、その液に命を奪うような毒はないから早めに引き離せば命に別状はない。
でも獲物を気絶させてゆっくり飲み込んでしまうので、その前に引き離す必要があるんだと、ポンゴは以前図鑑で見た“カズラモドキ”の別名がある、食虫植物に擬態した“マーレイトカゲ”のことをごく手短に説明しました。

79_2「そ、そうか、毒はないんだな。おまえよくそんなこと知ってたなぁ」
とコンラッドがそのカズラモドキのしっぽをつまもうとしたとき、コロンが
「だめ、ちょっとまって」とコンラッドの手を押さえました。
「邪魔するなよ。早く取らなきゃいけないんだ。いまポンゴの話してたことを聞いただろ」
と今度はハーネルがコロンの手をどけようとしています。
「そうじゃないの。ポンゴ、確認するけどこれ、本当にトカゲなのね」
「そうだ、と思う・・・。いや間違いない。トカゲだよ」
「だったらしっぽをつかんだってダメよ。すぐ切れてしまうわ」
と言ってコロンはコンラッドと入れ替わり、トカゲの顔の横、あごの辺りを右手の親指と人差し指ではさみました。
そして3呼吸ほど息を整えてからその指先に一気に気を送り込みました。
みんなには「ふん!」という短く息を吐く音が聞こえただけですが、次の瞬間にはもうコロンの右手には、力なく伸びたカズラモドキが垂れ下がっていました。


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2011年4月20日 (水)

78-怪しげな植物たち。

マホロバニカでは見たことのない植物がおい茂り、昼間でも薄暗いジャングルですが、お日さまも西の水平線に近くなってきているので、こどもたちのいるあたりはずいぶん暗く感じられます。
スイテンドウが放つ光のせいで、浮きガスの樹林のある河口方面が遠くにぼうっと輝いて見えています。
そんな中をチュチュやコト、ポンゴは平気な顔で歩いていきます。
ほかのみんなと比べると比較的暗がりでもよく見える目を持っているので、この三人が先頭を歩きながら、〈そこにトゲトゲの草が生えてるから左によけて〉などと注意をしてくれます。
それでもたまに、
「いてっ! もっと早く言ってよ! おれの黄金の右足を引っかいちゃったじゃないか」
とハーネルが騒ぎます。
「まあ何かしらこのいいにおい」
甘いにおいに敏感なコロンがにおいにつられて鼻をそこに近づけようとしましたが、それをチュチュが急いでとめます。
「ダメ!そこで止まって! 鼻を近づけちゃ危ない!」
驚いてコロンがよく見ると、まるで大蛇が大きな口を開けて牙をむいているようなな大きなとげを持った植物が、目の前にありました。
「ありがとうチュチュ。こんなところに鼻を突っ込んだら鼻をかまれちゃうわね。
この植物の口みたいなところから甘い蜜のにおいがするの」
遠巻きにトビーとハーネルが鼻を寄せて、くんくんとにおいをかいでいます。
78 「ホントだ。これで虫をおびき寄せてるんだな。
コロン、おまえ食いしん坊だから気をつけないと危ないぜ」
とハーネルが憎まれ口をたたいたので、さっきハーネルが引っかき傷を作ったところをユキが軽く蹴飛ばしました。
「あいてっ! 何するんだよう」
「女の子に失礼なことを言うからよ」
そしてチュチュに、この子たちがトゲトゲに引っかかりそうになっても、もう知らせなくてかまわないよと言って、赤い目でハーネルたちをにらみつけました。
「わ、わかったよぅ。もう言わないから・・・」
まったく、人食い植物より怖いなユキは、とハーネルはトビーに耳打ちしたので、トビーが〈しっ、もう言うな。ユキの耳もおれたちと同じで感度いいから〉と兄らしくハーネルに注意しました。

「わーっ!いたたたたた・・・・!!」
と、だれかが叫び声をあげました。
「今度はだれ?トビー?それともまたハーネル?」
ユキが二人のほうを見ましたが、そうではないようです。
「コンラッド?」
「いや、ぼくじゃない。聞いたことのない声だったぞ」
とあたりを見回しました。
「あたいらのほかにだれかいるん?」
コトが心配そうに目をこらしてあたりを見渡しました。
うーっという、押し殺したようなうめき声がしたあと、草むらの奥でドサッと何かが倒れる音がしました。

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2011年4月18日 (月)

77-ダンスコンテスト。

「これってまぼろし? “急性浮きガス吸引中毒”による」
「あいかわらず元気そうね、パラソラ。わたしは本物のリカ・ケミストンよ」
派手なダンス用の帽子をかぶったパラソラと呼ばれた女性の研究員と抱き合いながら、リカ機関長は横にいる、同じく帽子をかぶり口をぽかんと開け、片足を挙げたままのトブカ所長ににっこり笑いかけました。
「こりゃまた、めずらしいお客さんだ」
ようやく足を下ろして握手をすませた所長に、リカ機関長はオデッセイのみんなを紹介しました。
そして、どうやって“あのこと”をきりだそうかと思っていると、
「あのぉ・・・、ぼくたち、研究所の中や、下に降りて周りを見学したいんですけど・・・・」
とトビーがハーネルやコンラッドに促されて、リカ機関長に小声で言いに来ました。

77 多分機関長は、研究所時代の仲間とつもる話がおありでしょうからどうぞごゆっくり、などと大人のようなことを言っているのをとてもおかしく感じながら、ちょうどいいタイミングなので、
「そうねえ、せっかくだから見学させてもらうといいわね」
と、ヒーゲル先生の顔を見ました。
「ああ、それがよかろう。めったに見られんような施設じゃからな」
ヒーゲル先生もリカ機関長にうなずき返しました。
するとパックさんが
「下の実験室で新しい研究員助手も浮きガスダンスの練習をしてるから、彼女に頼んでくるよ」
と、こどもたちを階段を使って下まで案内し、また戻ってきてくれました。
リカ機関長は昔話をすることもなく、“いま自分たちが遭遇するかもしれない何か”について手短に話し、“浮きガス増産計画”についても詳しく質問しました。

実験室には変わった装置や器具が部屋のあちこちにあって、壁の周りの棚にも色とりどりの液体が入った容器がずらりと並んでいます。
研究員助手の女性は毎日見ているものなので、大して興味はなさそうです。
こどもたちは少し退屈になってきたので、研究所の外に出てみたくなりました。
研究員助手は今夜から始まる浮きガスダンスコンテストの練習がしたくてたまらないといったようすなので、〈ぼくたち外が見学したいんですが、ここを出てもいいですか?〉と聞いたときも、〈もちろんよ!〉と言って大喜びで部屋のとびらを開けてくれたほどです。
それでも一応、〈エレベーターを使うなら動かすのを手伝おうか?〉と言ってくれました。
でもこどもたちは階段をくだるだけなのでそれを丁重に断り、にぎやかに階段を降りていきました。

浮きガスダンスって聞いたら、なんだかわたしも踊りたくなっちゃった、とチュチュが言うと、今夜はバレーの練習時間がとれなくなっちゃうかもね、とコロンも残念そうに言いました。
「その代わり浮きガスダンスコンテストに飛び入りで参加して踊っちゃえば?
わたしもホントは出てみたいのよ」
浮きガスダンがどんなものなのかはわかりませんが、ユキも興味があるようです。

「ヒーゲル先生たちに断らなくてもいいかしら?」
黙って外に出てしまったことがコロンは少し心配です。
「あの研究員助手さんが言っといてくれるんじゃない?
それに、そんなに遠くには行かないし」
ハーネルの意見に結局全員賛成し、研究所から“そんなに”離れないということで、裏手の林・・・本当はジャングルなのですが、そこにみんなで向かっていきました。

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