85-好奇心。
ハーネルの背中にさかさに負ぶわれているラムネド王子ですが、もともと足を使ってさかさまにぶら下がる姿が基本姿勢のコウモリ族なので、かえって王子本人は先ほどのおんぶよりずっと楽だと言っています。
ただ、周りで見ているこどもたちの目には、ハーネルとラムネド王子のその姿がとてもおもしろく映っているようで、チュチュやコロン、ユキたちはくすくす笑っています。
「ぼくの母たちが、浮きガスダンスコンテストが始まるころに会場にやってくるんだ。それまでにそこに行かなきゃならない。
ぼくは母に内緒で、一人で先にここに来てしまったから・・・」
「じゃが、凶暴だと聞かされておったこのマングラップ島に、どうして一人でやって来なされたのかの?」
ヒーゲル先生は、王子という身分の者がたった一人でここにいるということが、どうにも気になります。
「見てみたかったんだ、自分の目で。国の言い伝えではなく、マングラップ島の住人のいまの姿を。
これまでも何人かの者たちが、夜の間にこっそりこの島にやってきたことがあるんだ。本当は王国の規律違反だけど。ぼくたちは“羽のある”陸の種族だからね。このくらいの距離なら海を渡るのはなんでもない」
そんなことを話しているところに、ワタリノフ航海士がリカ機関長とパックさんを連れてやってきました。
それに気づいたハーネルの目がワタリノフ航海士の目と合ったとき、ワタリノフ航海士が
ハーネルに向かって言いました。
「おやおや、君のお騒がせ病がほかの子たちにも伝染したみたいだね」
冒険授業初日の飛行船内見学ツアーで、浮きガスを吸い込んで騒ぎになったことを言っているんだなとハーネルにはわかりました。
「ワタリノフさん、そんな古いことを・・・・」
「ドクターヒーゲル。なぜこどもたちがここにいるとわかったんですか?」
パックさんは、ヒーゲル先生が迷うことなくジャングルのほうに駆け出していったことが不思議でなりません。
「簡単なことじゃよ。ほれ、君の大発明に乗ったとき、こどもたちが熱心にどこを見ていたかを思い出したんじゃよ。
これまで見たこともない密林を見て、そこに行ってみたいと思わないこどもはおらんと思うてな」
とくにこの子らはな。じゃろ?と、ヒーゲル先生はこどもたちの方を見てウインクして見せました。
浮きガスの樹に関する講義をして先生の気分を味わったリカ機関長は、先生という職業の奥深さをあらためて感じました。
そしてカケローニ先生がここにいないことが少し残念でした。
「それはそうと、ハーネルが背負っているそのこは・・・・」
と、リカ機関長がこどもたちに聞こうとしたとき、ワタリノフ航海士がハーネルの後ろに回ってラムネド王子の顔を覗き込みました。
「アンブレロッサの子だね」
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