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2011年5月

2011年5月25日 (水)

85-好奇心。

ハーネルの背中にさかさに負ぶわれているラムネド王子ですが、もともと足を使ってさかさまにぶら下がる姿が基本姿勢のコウモリ族なので、かえって王子本人は先ほどのおんぶよりずっと楽だと言っています。
ただ、周りで見ているこどもたちの目には、ハーネルとラムネド王子のその姿がとてもおもしろく映っているようで、チュチュやコロン、ユキたちはくすくす笑っています。

「ぼくの母たちが、浮きガスダンスコンテストが始まるころに会場にやってくるんだ。それまでにそこに行かなきゃならない。
ぼくは母に内緒で、一人で先にここに来てしまったから・・・」
「じゃが、凶暴だと聞かされておったこのマングラップ島に、どうして一人でやって来なされたのかの?」
ヒーゲル先生は、王子という身分の者がたった一人でここにいるということが、どうにも気になります。
「見てみたかったんだ、自分の目で。国の言い伝えではなく、マングラップ島の住人のいまの姿を。
これまでも何人かの者たちが、夜の間にこっそりこの島にやってきたことがあるんだ。本当は王国の規律違反だけど。ぼくたちは“羽のある”陸の種族だからね。このくらいの距離なら海を渡るのはなんでもない」

85そんなことを話しているところに、ワタリノフ航海士がリカ機関長とパックさんを連れてやってきました。
それに気づいたハーネルの目がワタリノフ航海士の目と合ったとき、ワタリノフ航海士が
ハーネルに向かって言いました。
「おやおや、君のお騒がせ病がほかの子たちにも伝染したみたいだね」
冒険授業初日の飛行船内見学ツアーで、浮きガスを吸い込んで騒ぎになったことを言っているんだなとハーネルにはわかりました。
「ワタリノフさん、そんな古いことを・・・・」
「ドクターヒーゲル。なぜこどもたちがここにいるとわかったんですか?」
パックさんは、ヒーゲル先生が迷うことなくジャングルのほうに駆け出していったことが不思議でなりません。
「簡単なことじゃよ。ほれ、君の大発明に乗ったとき、こどもたちが熱心にどこを見ていたかを思い出したんじゃよ。
これまで見たこともない密林を見て、そこに行ってみたいと思わないこどもはおらんと思うてな」
とくにこの子らはな。じゃろ?と、ヒーゲル先生はこどもたちの方を見てウインクして見せました。
浮きガスの樹に関する講義をして先生の気分を味わったリカ機関長は、先生という職業の奥深さをあらためて感じました。
そしてカケローニ先生がここにいないことが少し残念でした。

「それはそうと、ハーネルが背負っているそのこは・・・・」
と、リカ機関長がこどもたちに聞こうとしたとき、ワタリノフ航海士がハーネルの後ろに回ってラムネド王子の顔を覗き込みました。
「アンブレロッサの子だね」


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2011年5月18日 (水)

84-ラムラム諸島。

「いやみごとなもんじゃ。この応急処置のおかげで、直りが早いじゃろ」
傷口を調べたヒーゲル先生はコトとコンラッドを大いに誇りに思いました。
「コトが集めたチドメグサはマホロバニカにあるものとは少し種類が違うが、効果は同じじゃ。コトのおばあさまに感謝せにゃならんな。
そして君はこの子らに感謝せんとな」
とラムネド王子の羽のある腕に手近な枝木を当てて捻挫の手当てもしました。
そしてことの成り行きをこどもたちから聞いたヒーゲル先生はラムネド王子に、なぜここにお一人でおられたのかな?と、ちょっとあらたまった口調で質問しました。

「向こうにある浮きガスの樹のガスを直接吸い込んで、気持ち悪くなってふらふらと漂ってたら、ここに落っこちてしまったのだ。
ここの浮きガスは“浮かない”って聞いてたのに・・・」
「それは災難でしたな。じゃがそうではなくて、王子であるあなたがお供のものもつけずに、お一人でいらしたかということをお話くださらんかな? もし、よろしければじゃが」
最初王子は自分の口からその理由を話すのをためらっていましたが、ハーネルに〈そもそも王子ってのが作り話じゃないの?〉と言われたのが気にさわったのか、何かを決意をするような顔をして話し始めました。

そのときワタリノフ航海士は、こどもたちとヒーゲル先生が一緒にいるところを空の上から見つけたので、大急ぎでリカ機関長とパックさんを呼び戻しに、浮きガスの樹林に飛んでいきました。

84ラムネド王子の話したことによれば、自分はアンブレロッサ王国のただ一人の王位継承者で、アンブレロッサは苗字であると同時に国の名前であり島の名前でもあるようです。
アンブレロッサのあるラムラム諸島は、マングラップ島から西に少し行ったところにあります。
もともとラムラム諸島はマングラップ島も含めて“インデナイカ”という国に所属していましたが、700年ほど前に王国としてインデナイカから独立をしました。
それはコウモリ族が、インデナイカの陸の種族からは“羽のある陸の種族”として、鳥族たちからは“卵を産めない空の種族”として、両方の種族から迫害され続けていたからだそうです。
マングラップ島のコウモリ族と一部の陸の種族だけが、ラムラム諸島に移り住み独立してできあがった国、それがアンブレロッサ王国だということがわかりました。

これまで周りの者たちから、マングラップ島の住人は凶暴で、ラムラム諸島の者たちを見ると殺すか、ぼこぼこに殴る、そんな話しか聞いたことがなかったので、最初トビーたちを見たときは本当に殺されるのかと思って怖かったのだそうです。
威張っていたのは怖かったからで、でも、彼らがマングラップ島の者ではなくてマホロバニカからやってきたこどもだとわかったので少し安心し、いまはけがの手当てをしてくれたことに感謝しているとも言いました。
〈王国の教育係の話では、マホロバニカでは陸の種族も空の種族も、そして羽のある陸の種族もみんなが仲良く暮らしていると聞いている。だから自分も一度行ってみたいものだ〉とみんなを見回しながら言いました。

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2011年5月13日 (金)

83-王子?。

「へぇ、こいつお礼が言えるんだ。でもユキ、なんでおまえがそんなこと知ってんの?」
「さっき研究所で助手の女の人がそう言ってたよ、ハーネルキャプテン。
部屋にもポスターが張ってあったじゃない」
「そうだった? おれダンスってあんまり興味ないからぜんぜん気づかなかった。
え、みんな知ってた? そう。ポンゴ、おまえも? ふ~ん。
で、ラムネ王子、ひょっとしておまえも出るの?」
「何度言ったらわかるんだ。わが名はラムネドだ! おまえのでかい耳は飾りでついているのか。
ぼくがダンスコンテストに? 出るわけないだろ」
「く~っ、そんなことおれらにわかるかよ。出るか出ないかなんて。単なる見物ならおれも一緒だから連れてってやるよ。いまから行けばじゅうぶん間に合う。
さあ、おれに負ぶされ」
ハーネルはいやいやながらでしたが、ラムネド・・・王子に自分の背中を貸そうとしました。
この意外な展開に驚いたのはラムネド王子ではなく、ほかのこどもたちでした。
コンラッドの、〈ハーネル、君のことがときどきわからなくなるよ〉という言葉に全員がうなずき、トビーまで本当に双子か?と疑ったほどです。

83「いや、君の好意はありがたいが、ぼくは自分で行ける。けがをしてるのは足であって、羽ではないから」
とラムネド王子は座ったまま羽を広げました。
震えはおさまってきたようです。
でも、痛い!と言ってまた樹の根元にうずくまってしまいました。
どうやら痛めたのは足だけではなさそうです。
腕も捻挫していることがわかり、王子のほうもいやいやながらですが、ハーネルの背中を借りなければならなくなりました。
「だろう。最初から素直に負ぶさっとけばよかったんだ」
勝ち誇ったようなハーネルに、王子は〈断腸の思いだ・・・〉とつぶやきました。
でも残念ながらハーネルにはその言葉の意味がわかりません。

「ハーネル。傷口が心臓より下にあるのはまずいぞ。背負うならさかさまにしたほうがいいじゃろう」
声をかけたのはヒーゲル先生でした。
「白ヒゲ先生! こんなに先生に会いたいと思ったのは初めてです!」
ハーネルの目にうっすら涙がにじんできました。
みんなはいっせいにヒーゲル先生の元にかけ寄りました。
ヒーゲル先生はこどもたち全員の無事な姿を確認して、とても嬉しそうな目をしました。

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2011年5月 9日 (月)

82-ラムネド。

「おまえたちはだれだ?」
おびえるように樹の根元に寄りかかって座っているコウモリの子を、囲むようにして座っているマホロバニカのこどもたちです。
「なんで君・・・おまえは震えてるくせにそんなに偉そうなんだ。だいたいおまえこそだれなんだよ」
ハーネルは彼の態度にかなり頭にきているようです。
「人に名前をたずねるんなら、まず自分が名のれよ。
だいたい、けがをしてのびてるところを助けてもらってそんな口をきくか?
傷の手当までしたんだ。感謝しろよ」
「望んで手当てをしてもらったわけではない。それに手当てをしたのはおまえでなく、そこのキツネと、オコジョだ。
さらに言うなら、最初ぼくを運んだのはおまえではなかったぞ。おまえとそっくりのもう一人のウサギだ」
「うぅ。こいつよく覚えてるぞ」
「もうよせハーネル。頭のほうも打って、ちょっとおかしくなってるのかもな。
おれはトビー、こいつはおれの弟でハーネル。それから・・・あとは各自でどーぞ」
と言ってコンラッドを見たので、
「・・・コンラッドだ」
「ぼくはポンゴ。最初に君が倒れてたのを見つけたのはぼくなんだよ」
「あたいはコト。傷はまだ痛か?」
「わたしはコロン」
「わたしはチュチュ。バレリーナになるのが夢・・・あ、それはいいか」
「ユキよ。全員マホロバニカからやってきたのよ」
「え?マホロバニカ? 本当か?」
おびえているような男の表情が少しやわらぎました。

82「で、おまえ・・・あなたさまはどなたで? 王様」とハーネルはいやみな言いかたをしてみました。
「ぼくは王様じゃない」
「わかってるよ、そのくらい。言ってみただけ」
「ぼくは王様じゃない。王子だ」
はあ?・・・・とハーネルは大げさに耳に手を当てています。
「ラムネド。アンブレロッサのラムネド王子だ。傷の手当てと介護に・・望んだわけではないが・・その・・感謝する」

「まじかよ」とつぶやくトビーに、
「んなわけないじゃん。からかってんだよ、おれたちを」とハーネルはラムネドと名のったコウモリの男の子に聞こえるように言いました。
「どこまでも無礼なやつだな、おまえは。だがいまは許そう。
ときに、浮きガスダンスコンテストはもう始まっているのか?」
「おれたちに聞いてる? あのなあ、おれたちは今朝ここに着いたばかりで、祭りのことは知ってるけど、ダンスコンテストのことなんて・・・」
とハーネルが言うのをユキがさえぎって
「まだよ、ラムネ王子。日が落ちてから始まるって聞いてるわ」
「ラムネド王子だ。ラムネではない。だが・・ありがとう」

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2011年5月 6日 (金)

81-わがままな患者。

「ううっ・・」
トビーの背中でコウモリの男の子が、しぼり出すようにうめき声を上げ、うっすらと目を開けました。
「気が付いたかい? もう大丈夫だよ」
「ここはどこだ?・・・おまえたちはだれだ?」
声に力がありませんが、なんだか偉そうな言い方です。
「ぼくに何をしている。・・・足が痛いぞ。ぼくを降ろしたまえ・・・」
「ダメだよ。足をけがしてるんだから」
トビーがそのまま歩いていくのでコウモリの男の子はトビーの耳をぐいっと引っ張りました。
「いてっ! おいおい、むちゃするなよ。君を落っことしちゃうじゃないか」
「ぼくを降ろさないからだ」
このコウモリの子はわがままなようです。
トビーが立ち止まったので、ほかのこどもたちも二人の周りに集まってきました。
「どうしたの?」
ユキがトビーにたずねました。
「下に降ろせってきかないんだ。こいつけがしてるくせにおれの耳を引っ張るんだぜ」
トビーは少し腹が立ってきたみたいです。
「あら、この子の足から血が流れ出してる!
一度降ろして傷のぐあいをみたほうがいいんじゃない?」
しかたなくトビーは男の子を草むらに寝かせました。
トビーたちを見て男の子はとても怖がっているように見えます。

81「これを塗るとよかよ」
いつの間に摘んだのか、コトの手には血を止める効果のある草や葉が握られていました。
「あたしん育ったサクラ岬の森に、これとよく似た葉がいっぱいあって、けがをしたらあたいげのばあちゃんがよく塗ってくれたとよ」
「よく似た葉っぱ・・・って、大丈夫?」
「こことよく似たぬっかとこ(暖かいところ)じゃっで、おんなじじゃっ」
ハーネルやコンラッドの心配をよそに、コトは近くにあった棒切れと石を使って、もう葉っぱをたたいたりすりつぶしたりしています。
「だれか、傷口に当てる葉っぱを採ってきてくいやんせ」
するとコンラッドが、これでいいかな?と、しばるためのツルも一緒に持ってきました。
「おまえたち、それは本当に大丈夫なものなのか? そこの女子、おまえは本当にくすしの心得があるのか?」
コウモリの男の子が一番心配顔をしています。
“くすし”という言葉の意味がわからなかったこともあり、コンラッドはまったく聞こえないふりをして、コトから受け取ったすりつぶした薬草を傷口に練りはじめました。
「怖がらんでもよかよ」
「うわーっ! もっとそうっとやれ・・・痛いぞ・・」
「うぜらしか(うるさい)。 静かにしやんせ!」
コトがピシャリと言いました。
コウモリの子にコトの言葉が理解できたかどうかはわかりませんが、口をつぐんでくれたので、コンラッドはなんとか大きな葉っぱを包帯のように足に巻くことができました。
「あんたうまいわねぇ」とユキがコンラッドの手元を見つめているので、
なあに、足を骨折したとき、ヒーゲル先生が包帯を当ててくれるのを見てて覚えたんだと、コンラッドは照れくさいのでちょっとすまして振り返りました。


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