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2011年4月

2011年4月29日 (金)

収穫あれこれ。

01野菜盆栽のメリットは、普通の盆栽と違って時期が来れば収穫し、ありがたく食べられることです。
あるいはダイコンのときのように、食べたあと、残った茎の部分を殺風景な部屋の一隅に置き観賞用とできることでしょうか。

02しかし、なかには、ただ食べるためだけに育てているものもあります。
もちろん盆栽ではありません。
狭いベランダの一隅にプランター一つを置き、今回初めてキヌサヤエンドウを育ててみました。
種をまいたのが昨年11月初旬。
初めての収穫が今月初旬なので、およそ5ヶ月で食べられる実をつけてくれました。
先日それを卵とじにしていただきましたが、完全無農薬のキヌサヤはみずみずしく、プランター育ちですが、シャキシャキとした歯ごたえがとても心地いいものでした。
このところ陽気も良くなったせいで、ほぼ毎日片手に一握り程度ですが、食べごろのキヌサヤエンドウを収穫することができます。
ありがたいことです。

01_2実はそのプランターの余地に根付きの長ネギも間借りさせていたのですが、こちらのほうもすくすく伸びて、葱坊主もできました。
このネギはスーパーで買ったものですが、根が少し付いていたので、5cmくらい残して植えたものです。
葱坊主については、自分の目で間近に見たいがためにあえて切り取らずに残したものですが、それ以外の茎は納豆や豆腐の薬味に毎回切り取って使っていますが、そういう使い方には十分すぎるくらいに育っています。
誠にもってありがたいことです。

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2011年4月27日 (水)

80-捜索。

そのころ浮きガス研究所では、リカ機関長が浮きガス増産計画に関する詳細を聞きだすことができ、話し合いは一段落しました。
でも研究員助手がいまごろになって、こどもたちだけで外出をさせたことを報告に来たので、ヒーゲル先生が大変困っていました。
パックさんやトブカ所長があやまり、研究員助手に怖い顔をしています。
「彼女をせめるわけにもいかん。彼女一人にこどもたちをまかせっきりにしてしもうたわしが悪いんじゃから」
「おれとリカですぐ捜しにでかけますから、ドクターは心配しないでしばらくここで帰りを待っていてください」
パックさんはリカ機関長を連れて所長室を出ていきました。

「もうすぐ日が暮れる。急ごう」と二人が浮きガスエレベーターに乗り込んだとき、風を切る音がしたと思うと、ゴンドラの手すりにワタリノフ航海士が立っていました。
「テツヤーノ! いいところに来てくれたわ」
エレベーターはもう下がり始めています。
ちょっと驚いた顔をしているワタリノフ航海士を、リカ機関長はパックさんに紹介し、いまからこどもたちを捜しにいくいきさつを大急ぎで話しました。
黙って聞いていたワタリノフ航海士は
「なるほど。実は例の件に関して興味深いことがわかったので、ピット船長たちに報告して、それで君たちを呼び戻しに来たんだ。
自分も空から捜索を手伝うよ」
地上につくと、なんとそこには所長室にいるはずのヒーゲル先生が待っていたではありませんか。
80「遅かったのう」
パックさんが何か言いかけたのを片手を挙げて制して、ヒーゲル先生が続けます。
「いや、君らの言いたいことはわかっておる。
わしがカモシカ族だということを忘れておらんかね?
急勾配(こうばい)の下り斜面を降りるのはわしの得意中の得意なんじゃよ」
「まさに・・・そのようですね、ドクター」
尊敬の念をこめてヒーゲル先生を見つめなおす三人に向かって、
「わしの大事なこどもたちじゃ。じっとしておられんのじゃ。さあまいるぞ」
と言ってすぐさま研究所の裏へ向かっていきました。
パックさんが、そっちには道はありませんよドクター、と呼び止めたのですが、すでにヒーゲル先生の姿は見えなくなっていました。
「やれやれ、ミイラ取りがミイラにならなきゃいいけど・・・」とつぶやき、リカ機関長とパックさんは浮きガスの樹林に、ワタリノフ航海士はふたたび空に、それぞれ別れて出発しました。

     ●

カズラモドキを両腕に抱えなおして立っているコロンを、いったい何が起きたんだという顔をしてみんなが見ています。
「殺してないわよ。気絶してるだけだから」とコロンは言って、少し離れた草むらにトカゲを置いて戻ってきました。

「どんな手品を使ったんだ・・・?」
「やっぱりクマ族ね。すごい力だわ」
驚くみんなにコロンは、これはいわゆる力じゃなくて、“勁力(けいりょく)”といってわたしがチュイナンから来た拳法の先生から学んでるものだと説明しました。
「拳法のことはまた今度にして、それよりいまはそのコウモリ族の子の手当てを急ぎましょう」
「コロンの言うとおりだ。まず、かまれて足に付いたそのドロッとした液を、そこの川で洗い流したほうがいいね」
ポンゴとコンラッドがコウモリの子を抱えて連れてゆき、そうっと手で水をかけて洗いました。
「よし、すぐ浮きガス研究所に戻ってヒーゲル先生に診てもらおう」
おれとハーネルが交代で背負うからと、トビーがまずその子を背負いました。


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2011年4月25日 (月)

79-コロンの技。

「あそこだ。だれか倒れてるよ」
「足に何か付いてるわ」
「さっきの食虫植物みたいなものだぞ」
ポンゴが駆け寄って抱き起こしましたが、気を失ってぐったりしています。
みんなもその周りに集まってきました。
「だれかしら?コウモリ族の男の子みたいね。わたしたちと同じくらいだわ」
「トゲトゲ植物に足を突っ込んじゃったのかな」
そう言いながらコンラッドがそれに触れると、突然その植物のようなものが動き出しました。
「わあーっ、何だこれ!?」
その子を抱きかかえているポンゴは足に付いているものを見るなり
「それは植物じゃない! トカゲだ。トカゲが食いついてるんだ! 早く取らないと!!」
とコンラッドに、気をつけて引き離すよう言いました。
「引き離すって・・・どうやって?」
後ずさりし始めているコンラッドに、
「そんなことぼくにわかるわけないよ。とにかく早く何とかしないと」
一時的に体を麻痺させる麻酔のような液が牙から出るけど、その液に命を奪うような毒はないから早めに引き離せば命に別状はない。
でも獲物を気絶させてゆっくり飲み込んでしまうので、その前に引き離す必要があるんだと、ポンゴは以前図鑑で見た“カズラモドキ”の別名がある、食虫植物に擬態した“マーレイトカゲ”のことをごく手短に説明しました。

79_2「そ、そうか、毒はないんだな。おまえよくそんなこと知ってたなぁ」
とコンラッドがそのカズラモドキのしっぽをつまもうとしたとき、コロンが
「だめ、ちょっとまって」とコンラッドの手を押さえました。
「邪魔するなよ。早く取らなきゃいけないんだ。いまポンゴの話してたことを聞いただろ」
と今度はハーネルがコロンの手をどけようとしています。
「そうじゃないの。ポンゴ、確認するけどこれ、本当にトカゲなのね」
「そうだ、と思う・・・。いや間違いない。トカゲだよ」
「だったらしっぽをつかんだってダメよ。すぐ切れてしまうわ」
と言ってコロンはコンラッドと入れ替わり、トカゲの顔の横、あごの辺りを右手の親指と人差し指ではさみました。
そして3呼吸ほど息を整えてからその指先に一気に気を送り込みました。
みんなには「ふん!」という短く息を吐く音が聞こえただけですが、次の瞬間にはもうコロンの右手には、力なく伸びたカズラモドキが垂れ下がっていました。


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2011年4月22日 (金)

ゴマ和え。

01 クイズです。
これは何でしょう?
答え。
ニンジンです。
質問と回答の間がまるでないのでクイズにはなってないゾ!という突っ込みはうっちゃっておき、先に進みます。

02 このところニンジンを育てています。
いえ、正確にはニンジンの葉を育てています。
さらに厳密にいえば、ニンジンのいわゆる根の部分を食した後、これまでは捨てていた葉が付いていた根元の部分を水を張った容器につけているだけの話なのですが、3日ほどで新しい茎が伸びだし、2週間もするとすっかりもとのような状態になってしまうのです。
まるで盆栽の風情です。

03 しかしニンジンをただ盆栽として眺めるためだけに育てているわけではありません。
3週間くらい経ったところで、残酷にも茎ごと切り取り、ゴマ和えにして食べてしまいます。
これが実に美味しい!
ニンジンのほろ苦さとゴマの香りのハーモニー。
2本育てているのでお酒のあてにはうってつけの分量。
何せ室内なので害虫が付かない。害虫が付かないので無農薬。
器の水が少なくなったらそのつどわずかばかりの水を補給するだけの、超簡単、お手軽な水耕栽培なのです。

04 実はもうこれで3回もの収穫があり、つまり3度ゴマ和えとしてわたしの腹に納まってしまったのですが、いま4度目の収穫に向けて観察と水遣りに余念のない毎日です。
野菜盆栽にささやかな喜びを見いだし、つつがなく日々をわたしは過ごしています。
実にチープです。

05

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2011年4月20日 (水)

78-怪しげな植物たち。

マホロバニカでは見たことのない植物がおい茂り、昼間でも薄暗いジャングルですが、お日さまも西の水平線に近くなってきているので、こどもたちのいるあたりはずいぶん暗く感じられます。
スイテンドウが放つ光のせいで、浮きガスの樹林のある河口方面が遠くにぼうっと輝いて見えています。
そんな中をチュチュやコト、ポンゴは平気な顔で歩いていきます。
ほかのみんなと比べると比較的暗がりでもよく見える目を持っているので、この三人が先頭を歩きながら、〈そこにトゲトゲの草が生えてるから左によけて〉などと注意をしてくれます。
それでもたまに、
「いてっ! もっと早く言ってよ! おれの黄金の右足を引っかいちゃったじゃないか」
とハーネルが騒ぎます。
「まあ何かしらこのいいにおい」
甘いにおいに敏感なコロンがにおいにつられて鼻をそこに近づけようとしましたが、それをチュチュが急いでとめます。
「ダメ!そこで止まって! 鼻を近づけちゃ危ない!」
驚いてコロンがよく見ると、まるで大蛇が大きな口を開けて牙をむいているようなな大きなとげを持った植物が、目の前にありました。
「ありがとうチュチュ。こんなところに鼻を突っ込んだら鼻をかまれちゃうわね。
この植物の口みたいなところから甘い蜜のにおいがするの」
遠巻きにトビーとハーネルが鼻を寄せて、くんくんとにおいをかいでいます。
78 「ホントだ。これで虫をおびき寄せてるんだな。
コロン、おまえ食いしん坊だから気をつけないと危ないぜ」
とハーネルが憎まれ口をたたいたので、さっきハーネルが引っかき傷を作ったところをユキが軽く蹴飛ばしました。
「あいてっ! 何するんだよう」
「女の子に失礼なことを言うからよ」
そしてチュチュに、この子たちがトゲトゲに引っかかりそうになっても、もう知らせなくてかまわないよと言って、赤い目でハーネルたちをにらみつけました。
「わ、わかったよぅ。もう言わないから・・・」
まったく、人食い植物より怖いなユキは、とハーネルはトビーに耳打ちしたので、トビーが〈しっ、もう言うな。ユキの耳もおれたちと同じで感度いいから〉と兄らしくハーネルに注意しました。

「わーっ!いたたたたた・・・・!!」
と、だれかが叫び声をあげました。
「今度はだれ?トビー?それともまたハーネル?」
ユキが二人のほうを見ましたが、そうではないようです。
「コンラッド?」
「いや、ぼくじゃない。聞いたことのない声だったぞ」
とあたりを見回しました。
「あたいらのほかにだれかいるん?」
コトが心配そうに目をこらしてあたりを見渡しました。
うーっという、押し殺したようなうめき声がしたあと、草むらの奥でドサッと何かが倒れる音がしました。

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2011年4月18日 (月)

77-ダンスコンテスト。

「これってまぼろし? “急性浮きガス吸引中毒”による」
「あいかわらず元気そうね、パラソラ。わたしは本物のリカ・ケミストンよ」
派手なダンス用の帽子をかぶったパラソラと呼ばれた女性の研究員と抱き合いながら、リカ機関長は横にいる、同じく帽子をかぶり口をぽかんと開け、片足を挙げたままのトブカ所長ににっこり笑いかけました。
「こりゃまた、めずらしいお客さんだ」
ようやく足を下ろして握手をすませた所長に、リカ機関長はオデッセイのみんなを紹介しました。
そして、どうやって“あのこと”をきりだそうかと思っていると、
「あのぉ・・・、ぼくたち、研究所の中や、下に降りて周りを見学したいんですけど・・・・」
とトビーがハーネルやコンラッドに促されて、リカ機関長に小声で言いに来ました。

77 多分機関長は、研究所時代の仲間とつもる話がおありでしょうからどうぞごゆっくり、などと大人のようなことを言っているのをとてもおかしく感じながら、ちょうどいいタイミングなので、
「そうねえ、せっかくだから見学させてもらうといいわね」
と、ヒーゲル先生の顔を見ました。
「ああ、それがよかろう。めったに見られんような施設じゃからな」
ヒーゲル先生もリカ機関長にうなずき返しました。
するとパックさんが
「下の実験室で新しい研究員助手も浮きガスダンスの練習をしてるから、彼女に頼んでくるよ」
と、こどもたちを階段を使って下まで案内し、また戻ってきてくれました。
リカ機関長は昔話をすることもなく、“いま自分たちが遭遇するかもしれない何か”について手短に話し、“浮きガス増産計画”についても詳しく質問しました。

実験室には変わった装置や器具が部屋のあちこちにあって、壁の周りの棚にも色とりどりの液体が入った容器がずらりと並んでいます。
研究員助手の女性は毎日見ているものなので、大して興味はなさそうです。
こどもたちは少し退屈になってきたので、研究所の外に出てみたくなりました。
研究員助手は今夜から始まる浮きガスダンスコンテストの練習がしたくてたまらないといったようすなので、〈ぼくたち外が見学したいんですが、ここを出てもいいですか?〉と聞いたときも、〈もちろんよ!〉と言って大喜びで部屋のとびらを開けてくれたほどです。
それでも一応、〈エレベーターを使うなら動かすのを手伝おうか?〉と言ってくれました。
でもこどもたちは階段をくだるだけなのでそれを丁重に断り、にぎやかに階段を降りていきました。

浮きガスダンスって聞いたら、なんだかわたしも踊りたくなっちゃった、とチュチュが言うと、今夜はバレーの練習時間がとれなくなっちゃうかもね、とコロンも残念そうに言いました。
「その代わり浮きガスダンスコンテストに飛び入りで参加して踊っちゃえば?
わたしもホントは出てみたいのよ」
浮きガスダンがどんなものなのかはわかりませんが、ユキも興味があるようです。

「ヒーゲル先生たちに断らなくてもいいかしら?」
黙って外に出てしまったことがコロンは少し心配です。
「あの研究員助手さんが言っといてくれるんじゃない?
それに、そんなに遠くには行かないし」
ハーネルの意見に結局全員賛成し、研究所から“そんなに”離れないということで、裏手の林・・・本当はジャングルなのですが、そこにみんなで向かっていきました。

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2011年4月15日 (金)

ダイコンの花。

00 これはダイコンの花だ。
普段スーパーなどで買ってくるものは、茎は付いていても花までは付いていない。
当然である。
花が咲くほど育ててしまっては、肝心なダイコンのほうに“す”がはいってしまうからだ。
したがって日常でダイコンの花を目にする機会はごく稀である。
しかし、その稀がわたしの部屋に来てくれた。

01 本当のことを正直に告白すれば・・・、実は家人の姉が自家製農園で収穫した土付きダイコンを、段ボール箱に詰めてたくさん送ってくれたのだが、一度に食べられずぐずぐずしていたために、残った数本が箱の中で茎が伸び、花芽まで出てしまった結果なのだ。

02 日のあたらぬ箱の中で、横になったまま茎が青白く伸びたダイコンを、水を張ったボールの中に浸し一晩措いてみたら、植物の定めなのか重力に逆らって、すっくと立ち上がってきたではないか。
あまりのけなげさに心を打たれ、そのうちの2本をダイコン本体から切り離し、ガラスの花器に移してみた。
安価ではあるが、実にすがすがしいながめだ。

03 「だいこんの花」といえばすこし年かさの方なら、かの名優森繁久彌氏主演のテレビドラマを思い出すかもしれない。
妻をなくした男が在りし日の妻を「素朴だが美しく控えめな人」と称していたようであるが、このダイコンの花を見ているとその意味が大変よくわかる。
どのくらい観賞用の花として生き続けてくれるかはまだわからないが、その寿命の尽きるまで見守ってやりたい。

04 余談だが、茎から切り離したダイコン本体のほうは、昨夜煮物にしてありがたくいただいた。
思ったほどすは入っておらず、口の中で解けるような食感に日本酒が一段とうまく感じられたことに感謝したい。

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2011年4月13日 (水)

76-パーティーへのお誘い。

「みんな足元に気をつけるんだよ。降りたら立ち止まらないで奥へ進んでくれ。
君は先に所長室に向かってて」
とリカ機関長に先を促しながら、パックさんはこどもたちが浮きガスエレベーターから降りるのを手伝ってくれました。

「パックさん、この魚はどうするね?」
最後に降りるヒーゲル先生が、エレベーターの中においてある魚の入ったビクを覗き込みながらたずねました。
「あとで所長のうちに持っていくんで、そのままでかまいませんよ、ドクター。
先生たちも今夜はおれたちと一緒にサシミパーティーを楽しみませんか?
サシミ以外にもうまいものがたくさん揃ってますよ」
ヒーゲル先生は乗り降り用にかけられた板を注意深く渡りながら、サシミの味を思い出していました。
「そりゃいいのう。久しぶりに新鮮なサシミをいただいてみたいもんじゃ。
じゃがのう、今夜はちとムリかもしれんな・・・・」
ヒーゲル先生も本当はこどもたちに、久しぶりに新鮮な食事をとらせてやりたいのですが、これからおこるかもしれない“何か”のことが気がかりなのです。
そんなことは知らないパックさんは熱心にパーティーに誘ってくれます。
76 「どうせタワーホテルなんでしょ。食事と宿泊は。確かに部屋は豪華だけど。食事は絶対こっちですよ!
所長んちはけっこうデカイんでみんなが寝るところなら心配ないですから」
パックさんとしては、久しぶりのお客さんなので嬉しくてしょうがないようです。
サシミのさばきかたも披露したいとか、パーティーは大勢のほうが断然楽しさが違うとか、いろいろ並べたてています。
「困ったのう。
こどもたちの責任者・・・校長代行が船長と飛行船に残っておるんであとで相談せにゃならん。それに判断をくだすのは船長なんでな・・・」
「飛行船には後から使いを出して、船長さんたちもこちらに案内しますから」
パックさんはどうあってもみんなを招待したいようです。
「そうじゃな、むしろ所長さんのところにこどもたちをあずけておいたほうが安全かもしれんな・・・」
「安全?何のことです?」

「白ヒゲ先生!」
何を立ち話してるの?早く中に入ろうよぉと、ハーネルがこちらに手をふっています。
「おー、いま行く。年をとると君らのようにかけだせんのでな」
ハーネルにそう応え、パックさんには小声で詳しいことは中で話そうと、所長室に向かう階段を上がっていきました。

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2011年4月11日 (月)

75-パックさんの発明。

〈浮きガス祭りの期間中は休みます〉と書かれた札がとびらにかけられています。
とびらを開けると長いジグザグの階段が、延々と上まで伸びています。
リカ機関長はチラッと上のほうを見てため息をつきました。
所長室は研究所のてっぺん、地上からおよそ15エダットほど上にあるからです。
所長やパラソラはヒヨケザル族だからこんな昇り降りは平気・・・っていうよりお得意かもしれないけど、私にはちょっとね、とやや気がめげそうなようすです。

「リカ、何してんだ。みんなこれで行くんだよ」
と、外からパックさんが呼んでいます。
外ではヒーゲル先生もこどもたちも、研究所の裏にある、屋根のついたオリのようなものの中に集まっています。
見ると屋根には丸いボールのようなものが四つ付いていて、遊園地にあるゴンドラのようにも見えます。
「まあ!なあに、これ? 初めて見るわ」
「おれが考えて作ったんだ。すごいだろ」
パックさんが胸をそらして昇降口の横に立っています。
「だからナンなの、これは?」
75 リカ機関長も乗り込みながら、このゴンドラのようなものの中を注意深く観察しました。
ゴンドラの真ん中に、一本の棒・・・ツタのようなものが床から天井まで貫いているのがわかります。
「ウォッホン! 名付けて“浮きガスエレベーター”」
パックさんは得意げな顔をしています。
「えっ?浮きガス、エレ、エレ・・・」
初めて聞く名前にみんなはぽかんとしています。
エレベーター、とパックさんがもう一度言いながら床のレバーを倒すと、ゴトン!と揺れてゴンドラ全体が地面から浮き上がりました。

おーーっ。
こどもたち全員のどよめきが天井にこだましました。
周りの景色がゆっくり下に向かって動いていきます。
ちょっとめまいのようなものを感じたコトやコロン、ポンゴ、コンラッドは手すりにしっかりつかまっていますが、怖いわけではなさそうです。

「見直したわぁ、パック。浮きガスの風船付きゴンドラ」
リカ機関長も感動しているようすです。
「だから、浮きガスエレベーターだって」

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2011年4月 8日 (金)

74-悪霊たちの食べ物。

このあたりの国や島の人たちは、魚を生で食べる習慣がほとんどありません。
4年前リカ機関長が研究所にやって来たとき、獲れたての魚を“サシミ”にして、マホロバニカから持ってきたお米と酢でご飯を炊き、“スシ”をつくり、“しょうゆ”という、大豆から作ったソースをかけて研究所のみんなにごちそうしたことがありました。
もちろん“ワサビ”という辛い緑色のクリームのようなものもパックさんたちには初めてでした。
研究所の人たちはこの衝撃的な食卓に、〈まるで悪霊たちの宴だ!〉と言って始めのうちは手を出しませんでした。
でもやがて少しずつ口に運ぶうちにいつの間にか〈もっとないの?〉とおかわりを催促するようになったのでした。
その後研究所では、しばらくスシとサシミブームがおこったほどです。

パックさんも研究所に戻るので、みんなと一緒に歩き始めました。
「リカがマホロバニカに帰ったあとも、ちょくちょく作ってるんだ。
所長なんか自分で魚をさばけないもんだから、おれによく作らせるしね。
いまじゃ飛行船発着場にあるタワーホテルのレストランでも出してるんだぜ」
「まあ、驚きだわね。
じゃあ島の人たちみんなが生の魚を食べられるようになったの?」
「そこまではね。主に観光客さ。特にイタロアやわがふるさとアメリアからの人たちに人気が高いかな」
「のんびりした生活の中にも、少しずつ変化はおこるものなのね。
ところで・・・」

74 リカ機関長はこどもたちに聞かれないように注意しながら、この島や島の周辺で何か変わったことは起きていないかパックさんに聞いてみました。
「変わったこと?サシミ以外に?
ん~、特に思い当たらないな。
基本的に“の~んびリズム”の島だから。まあ以前よりか研究所は忙しくなってきてはいるけど」
「私がマホロバニカに帰ってしまったから、そのしわよせかしら?」
「それはないね。君が帰ったあと、助手として島の研究員も一人やとったり、おれもこうして残ってるし。
オオミツボカズラの人工植林なんかに手を貸してるからだよ」
「人工植林?」
パックさんは少し困った顔をしています。
「浮きガス増産計画の一環さ。君がいるころにもそんな話が出ていただろ?」
「ええ、でもこの樹林にはとてもそんな余裕はないから、実際にはその話は白紙に戻ったはずでしょ。
さっき見たところもオオミツボカズラの密集度が高くて、少し伐採したほうがいいのにって感じたくらいだもの」
「ああそうなんだ。先週も一本まびきしてフロンシェに送ったところさ。君の国に送ったのと同じ帆船でね。
オデッセイ号にはそのときの樹が積まれてるんだろ?」
「そうよ。あのときはオオミツボカズラの研究と同時に、買い付け役もしなけりゃならなかったから大変だったわ」
リカ機関長は4年前をちょっと懐かしく思い出していましたが、いまは昔話を楽しんでいるときではありません。
「それよりその、浮きガス増産計画のことを詳しく教えてよ」
「その話ならおれよりトブカ所長のほうが詳しいよ。上にいるから聞いてみるといい」
と言ってパックさんは真上を指さしました。
そして、さあ着いたよと、こどもたちにも聞こえるように言ったあと、
「飲み終わったココナッツミルクの実は、研究所の裏にある資源回収箱にちゃんと入れるんだよ」
とも付け加えました。

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2011年4月 6日 (水)

73-パックさん。

「リカ先生・・・じゃなかった、リカ機関長。ここが研究所ですか?」
こどもたちに即席で授業をしたので、ユキはつい先生と言ってしまいましたが、リカ機関長は嬉しそうです。
「研究所はもう少し先の、ちゃんとした地面の上にあるわ。
この樹は研究所から一番近くて、使い勝手がとてもよかったからよく通ったところなの」
リカ機関長は樹にかかっているはしごに手をかけながら答えました。

「だれかと思ったら、リカじゃないか!」
突然どこからか声が聞こえました。
「おーい、こっちだ。樹の裏側だよ」
「まあ!!パックじゃない!
何してるの?こんなところで」
「それはこっちのセリフだろ」
パックと呼ばれた人は、ボートでこちらに向かってきました。

73 「浮きガス研究所のパック研究員よ。それとも、もう所長になったのかしら?」
「まだ研究員だよ。トブカ所長があいかわらず元気に頑張ってるよ。
もちろん君と仲良しだったパラソラもね」
リカ機関長は以前の同僚をみんなに紹介しました。
パックさんはバク族ですが、マーレイバクではなくて、アメリアから来たアメリアバクです。
リカ機関長と同じで、浮きガスの研究と研修のためにこの島にやってきましたが、ここの生活がとても気に入って、研修期間が終わってもずっとこの島に残っているのだそうです。

「それよりここで何してたの?」
お祭り好きのパックが街にも行かないでここにいることが、リカ機関長は不思議でなりません。
「男が一人ボートに乗ってたんだぜ。あれしかないじゃないか」
と、ボートを指さしました。
こどもたちも一緒にそのボートを覗き込むと、入れ物の中に色鮮やかな魚が数匹はねているのが見えました。
「つり?」
「そうさ。今夜の食事用にね。浮きガス祭りのパーティが所長んちであるんだ」
「あら、そうだったの。
ムニエル?それともトロピカルソテーかしら?」
「何言ってんだ。“サシミ”だよ。こんな新鮮なもの、それしかありえないだろ」
リカ機関長もヒーゲル先生も、こどもたちもちょっとびっくりしています。

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2011年4月 4日 (月)

72-命の環(わ)

「こういうのを“命の循環”って言うのよ」
「ジュンカン?」
「めぐり回っている、ってことね。
その中のどれか一つでも欠けたら自然のバランスがくずれてしまうわ」
リカ機関長は一人ひとりのこどもたちの顔を見ながら話しています。
でも意識してこどもたちの顔を見ているわけではありません。
こどもたちが顔を、目を、きらきら輝かせながらリカ機関長の話を聞いているので、むしろリカ機関長のほうがこどもたちの顔に吸い寄せられている感じです。

〈カケローニ先生がちょっとうらやましいわ〉と思っているとポンゴが手をあげました。
「はい、ポンゴ君」と質問をうながしました。
「目に見えないようなプランクトンでも?」
「ええ、もちろんよ。
彼らがいなくなったら、死んでしまった水の生き物やふんがそのまま腐ってしまい、水が汚れてしまうわ。
すると水の生き物もすめなくなるし、スイテンドウの周りもコケだらけになり、オオミツボカズラも水中から栄養もとれなくなるし、呼吸もできなくなってしまうのよ」
リカ機関長の話はもう少し続きます。
72 彼女は普段は研究者として暮らしているので、大勢のこどもの前でこんなに長く話すことはありません。
「命の循環は、わたしたちが暮らす里山や陸の世界でも同じよ。
この星のすべての命はつながっているの。
だからそのバランスを崩すようなことはしてはいけないし、しないような生活を心がけなきゃね」
最後はこどもたちにというより、むしろ自分自身に向けての言葉かもしれません。

教室の中での授業と違って、野外で実際に自然に触れながらの講義なので、みんなの頭の中にすーっとリカ機関長の言葉が入っていくようです。
耳からだけでなく、目からも、いえ、からだ全部を使って学ぶことが、この冒険授業の目的なんだよと、ブライトン校長は以前にこどもたちに話したことがあります。
もちろんこどもたちはその話そのものを覚えているわけではありません。

「わたいらはおてんとさまの恩恵で生きていられるんじゃっち、あたいげのばあちゃんが言うちょったとよ。
じゃっで世界中ん人たちはおてんとさまに感謝しなきゃやっせんじゃっち」
コトがそう言うと、チュチュは
「空にあるたった一つのおてんとうさまで、世界中を幸せにしてるんだね」
と言いながら、コロンが差し出したココナッツミルクのストローをくわえ、おいしそうに飲みました。
そして
「ココナッツミルクもわたしたちを幸せな気持ちにしてくれるわ!」
と嬉しそうに付け加えました。

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2011年4月 1日 (金)

71-自然の中のスイテンドウ。

オオミツボカズラの樹林はパンラプス川の河口周辺に広がっています。
入り江から少し入った、川の水と海水が混じりあったところの水面から、高くそびえたっていて、オデッセイに積まれているオオミツボカズラがミニチュアサイズに思えてきます。
樹の周りにはたくさんのウミスイレンやウミバスの葉が顔を出していて、水上の散歩道になっています。
この島のハスの葉はとても浮力が強いので、マングラップサイが乗っても水に沈むことはありません。
浮きガスの樹から溶け出す成分のせいだということが最近の研究でわかってきましたが、その研究にたずさわったことが、実はリカ機関長の密かな自慢です。

71 「みんな足元に気をつけながら下のほうを見てみて。
ほら、水の中」
リカ機関長に言われてみんなが根っこのほうを見ると、水の中が淡く輝いています。
お日さまの光をさえぎるほどの樹林なのに、その光を受けてこの川の周辺が光って見えます。
「スイテンドウ、だったかしら」とコロン。
「正解。そしてその光に誘われてやってくる魚やエビ、カニももうおなじみでしょ」
こどもたちは、先ほどビーチでリカ機関長から買ってもらったココナッツミルクを両手で抱えながら、水の中を覗き込みました。
ココナッツの実はチュチュにとっては大きすぎるサイズなので、コロンが彼女の分もかかえています。

「オオミツボカズラの根っこの部分を、特にスイテンドウと呼びわけているけど、水の中の生き物にとってはそれがお日さまに当たるからって前に言ったわね」
リカ機関長の臨時授業の始まりです。
「この光のおかげで水の中の環境が快適に保たれてるって」
こどもたちは船内見学ツアーでの説明を思い出しました。

浮きガスの樹の周りの水の中ではスイテンドウがお日さまで、その周りにはたくさんの植物が育ちます。
そしてその植物やプランクトンをえさとして、たくさんの魚やエビやカニや貝が育ちます。
樹の根っこ、スイテンドウに付きすぎたミズゴケはウミタニシなどの貝が食べてくれます。
そして水の中の生き物たちの死がいやふんが、プランクトンたちに分解されて浮きガスの樹の栄養になります。
そして浮きガスの樹は水中にたくさんの酸素を、地上には浮きガスを出してくれます。
もちろん浮きガスは空気と出会うとすぐに分解されて普通の空気に変わります。
オデッセイの中にある巨大な金魚ばちの中は、ここ、パンラプス川の自然環境に、できる限り近い形で再現してあるんだということが、みんな自分の目で確かめられてよくわかりました。

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