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2011年4月 8日 (金)

74-悪霊たちの食べ物。

このあたりの国や島の人たちは、魚を生で食べる習慣がほとんどありません。
4年前リカ機関長が研究所にやって来たとき、獲れたての魚を“サシミ”にして、マホロバニカから持ってきたお米と酢でご飯を炊き、“スシ”をつくり、“しょうゆ”という、大豆から作ったソースをかけて研究所のみんなにごちそうしたことがありました。
もちろん“ワサビ”という辛い緑色のクリームのようなものもパックさんたちには初めてでした。
研究所の人たちはこの衝撃的な食卓に、〈まるで悪霊たちの宴だ!〉と言って始めのうちは手を出しませんでした。
でもやがて少しずつ口に運ぶうちにいつの間にか〈もっとないの?〉とおかわりを催促するようになったのでした。
その後研究所では、しばらくスシとサシミブームがおこったほどです。

パックさんも研究所に戻るので、みんなと一緒に歩き始めました。
「リカがマホロバニカに帰ったあとも、ちょくちょく作ってるんだ。
所長なんか自分で魚をさばけないもんだから、おれによく作らせるしね。
いまじゃ飛行船発着場にあるタワーホテルのレストランでも出してるんだぜ」
「まあ、驚きだわね。
じゃあ島の人たちみんなが生の魚を食べられるようになったの?」
「そこまではね。主に観光客さ。特にイタロアやわがふるさとアメリアからの人たちに人気が高いかな」
「のんびりした生活の中にも、少しずつ変化はおこるものなのね。
ところで・・・」

74 リカ機関長はこどもたちに聞かれないように注意しながら、この島や島の周辺で何か変わったことは起きていないかパックさんに聞いてみました。
「変わったこと?サシミ以外に?
ん~、特に思い当たらないな。
基本的に“の~んびリズム”の島だから。まあ以前よりか研究所は忙しくなってきてはいるけど」
「私がマホロバニカに帰ってしまったから、そのしわよせかしら?」
「それはないね。君が帰ったあと、助手として島の研究員も一人やとったり、おれもこうして残ってるし。
オオミツボカズラの人工植林なんかに手を貸してるからだよ」
「人工植林?」
パックさんは少し困った顔をしています。
「浮きガス増産計画の一環さ。君がいるころにもそんな話が出ていただろ?」
「ええ、でもこの樹林にはとてもそんな余裕はないから、実際にはその話は白紙に戻ったはずでしょ。
さっき見たところもオオミツボカズラの密集度が高くて、少し伐採したほうがいいのにって感じたくらいだもの」
「ああそうなんだ。先週も一本まびきしてフロンシェに送ったところさ。君の国に送ったのと同じ帆船でね。
オデッセイ号にはそのときの樹が積まれてるんだろ?」
「そうよ。あのときはオオミツボカズラの研究と同時に、買い付け役もしなけりゃならなかったから大変だったわ」
リカ機関長は4年前をちょっと懐かしく思い出していましたが、いまは昔話を楽しんでいるときではありません。
「それよりその、浮きガス増産計画のことを詳しく教えてよ」
「その話ならおれよりトブカ所長のほうが詳しいよ。上にいるから聞いてみるといい」
と言ってパックさんは真上を指さしました。
そして、さあ着いたよと、こどもたちにも聞こえるように言ったあと、
「飲み終わったココナッツミルクの実は、研究所の裏にある資源回収箱にちゃんと入れるんだよ」
とも付け加えました。

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