68-の~んびりとした島。
「みんな久しぶりの地上だから、ゆっくり楽しんでくればいいぞ。
もし泳ぎたければそれもよし。
でも遊泳禁止区域には行かんようにな。
それとあまり岸を離れちゃだめだ。
海は里山の池や川とはまったく違うからな」
心配顔のカケローニ先生は、ヒーゲル先生にも
「ではくれぐれもこどもたちをよろしくお願いします。
夕方からの“浮きガス祭り”の見学に間に合うようにお帰りください。
自分が引率できなくて申しわけないことです」
と頭を下げています。
海岸までは、ワタリノフ航海士が飛びながら空の上から誘導してくれたおかげで、迷わず行くことができました。
「じゃあみんな、自分は急いで任務に戻るけど、休暇を楽しんでくれたまえ。
夕方にまた会おう」
ウインクしながら飛行船発着場のほうに飛び去っていくワタリノフ航海士に、みんなで大きく手をふって別れました。
「ワタリノフ君はそのまま情報収集に向かったので、われわれも予定どおり行動開始だ」
ピット船長はカケローニ先生に食糧補給を頼んでから、飛行船の周りに集まっている整備の人たちに、きびきびと点検箇所の指示をしています。
指示を聞いているマーレイバクやマングラップサイの整備士たちは、どこかおっとりしているように見えますが、整備手帳を見ながら一生懸命メモをとっています。
「オデッセイの初飛行、おめでとうございます。
いまある飛行船の中では最新型なんで、み~んな楽しみに待ってたんですよ。
特に気になった箇所はありますかぁ?」
話し方はとてものんびりしています。
ピット船長は2年ぶりに会った整備士の人たちと握手を交わしながら、
「右舷の舵輪の動きがが少し硬いようだね。
それと4階ガスドーム左舷前方にある、浮きガスの調整弁もみてくれないか。
いま3階で機関長が浮きガスの樹の点検をしているから、詳しくは現場で説明を聞いてくれたまえ」
〈わっかりましたぁ〉と船長に敬礼し、整備したちはそれぞれ担当するところにゆったりとした足どりで向かっていきました。
ピット船長は、ガスドームに向かう整備責任者を呼び止め、最近このあたりで何か変わったことはないかたずねてみましたが、整備責任者は
「この島周辺は、たぁ~いへん平和で、の~んびりしたところです。
訪れる人たちはみ~んな、しばしの骨休めをしたり、島の観光をしたりして、すこぶるくつろいだ気分で過ごしていますよ。
特にきょうからは浮きガス祭りだから、オデッセイの乗員乗客の人たちも、滞在中はど~ぞ、ゆ~ったりとしてお過ごしください」
と笑顔で応えて去っていきました。
いま緊急事態に直面しているピット船長は、この島ののんびりムードに調子が狂いそうですが、本当はこういう生き方や生活のリズムのほうが、健康的でからだや心にもよさそうだということがわかっているので、ちょっとうらやましくも感じています。
また、発着場シンボルタワーの中にある食糧倉庫では、カケローニ先生も食料保管係の人たちに同じようにたずねてまわりましたが、やはり気になることは何も聞きだすことはできませんでした。
せっかちなカケローニ先生も、情報が得られなかったことよりも、食料保管係の人たちのゆっくりとしたテンポにずいぶん苦労したようです。
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コメント
こんばんは
この島の人々は、裏で蠢く何かに気づいていないのでしょうか。

いえ、何かの影に気づいても前回のココナッツミルクのように、記憶に残らないのですね。
のんびりムードは身体や心に良いし、とても羨ましいことです。
ですが、それだけではいざという時に本当に大切な人を守ることは、出来ないのかもしれません。
投稿: ナカムラ | 2011年2月11日 (金) 17時47分
こんばんは。
本当ですね。
強さに裏打ちされたやさしさ・・・。
それが度を越すと物量作戦でパワーが強いほうが、正義になってしまうと困ります。
生きるって難しい。
投稿: ミム | 2011年2月11日 (金) 18時59分