62-夕映え。
「もし襲ってくるとしたら、おそらく新しい食料なんかを積み込んだあとじゃろうな」
「ええ、わたしもそう思います」
「じゃとすると、最初の寄港地でどれだけの準備ができるかじゃな」
「何か準備をするとして、一体どんな準備をしたらいいのかしら?」
みんなの声に少し緊張が戻ってきました。
「あすの午前中には最初の寄港地に着きます。
そこで何か新しい情報が手に入るかもしれません。
自分たち鳥族の通信員や集配員が、毎日行き来していますから」
ワタリノフ航海士はあす、寄港地に到着しだい情報集めに出かけますと言って、操舵席前の窓から空をながめました。
航海士の席に座っているリカ機関長も、このとき初めて気づいたように窓の外をながめました。
見上げれば空の上は濃いむらさき色に変わり、海に近づくにしたがって赤むらさき色、だいだい色、そして輝くような黄色に染まっていました。
そして見下ろす海はその空を逆さにしたように色づき、お互いの境めの区別がつかないほどです。
「どうかしたかね? ワタリノフ君」
「いえ、とても穏やかなながめだなと思いまして。
この空で何か良くないことがおきるなんて。
とてもそんなふうに見えんのです」
「本当ですわ・・・」
リカ機関長も、窓の外に広がる空と海とで奏でる色彩の調べにうっとりとなっています。
ヒーゲル先生とカケローニ先生も操舵席に近づき、窓の外をのぞきこみました。
少しのあいだピット船長も、心が洗われるような思いでながめていましたが、ヒーゲル先生が観測用のイスを離れたので、ワタリノフ航海士に
「定時観測」
と声をかけました。
するとワタリノフ航海士はすばやく観測用のイスに腰かけ、イスを天井近くまで上げました。
それから天井の観測用ハッチを押し上げ、一面こがね色に染まった空の中に顔を突き出しました。
そして強い風をくちばしとほっぺたに受けながら、下にいるピット船長に伝えます。
「ボルチオ海上空、高度1000エダット、風速第4レベル。
現在、ソラマメ諸島上空を時速140ミキロで航行中。
進路前方、障害物なし。以上」
「了解。ご苦労」
ワタリノフ航海士は観測報告をし終わってもしばらくそこを離れないで、外の光景をながめていました。
お日さまは、すでに飛行船の下側を照らし始めています。
こがね色に染まりながらオデッセイ号は最初の寄港地、マングラップ島に向け飛び続けます。
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コメント
こんばんは
夕映えの空に、暫し和んでいる様子ですね。朝・昼・夜と色んな顔をもっていて、きっと夕方が一番キレイなのでしょう。
夜は暗く、何かをつきつめてしまう時間で
朝になるとあとかたもなく消えてしまう。
空と一日の時間こそ、人間に色々な心境をもたらしているのかもしれませんね。
投稿: ナカムラ | 2011年1月26日 (水) 18時20分
こんばんは。
黄昏どき、わたしが最も好きな時間帯です。
本来は夕暮れの薄明かりで、誰か、彼かわからない、つまり「たれそ、かれそ」という古語から来ていると聞きました。
「逢魔が時」とも言いますが、まさに魔物に出会いそうな不思議な時間帯ですね。
嵐の前の静けさ、にならなければいいのですが・・・。
投稿: ミム | 2011年1月26日 (水) 22時40分