61-初心者?
ふたたび船長が続けます。
「通常、実習目的の船が襲われるなんてことはありません。
先ほども言ったように積荷にさほど価値がないですから」
「労多くして益少なし、じゃな」
「そのとおりです、ヒーゲル先生。
これまで空での盗賊行為はまだ一度も確認されていません。
おそらく飛行船の時代に入って間もないからでしょう。
したがって空の警備計画もまだほとんど進んでいません」
ちょっと間をおいて船長はさらに続けました。
「ならず者の側から考えてみたんです。
いよいよそのときが来たとして、これから盗賊行為の実践を始めるにあたり、まず何をしたらよいかを」
「わかりましたわ。
先ほどのカケローニ先生の話の場合と同じで、手ならしのために襲いやすい船を選んで現場実習をする!」
ワタリノフ航海士にからかわれてからずっと黙って聞いていたリカ機関長が、ようやく口をききました。 「そこに運良くこどもたちばかりの乗った飛行船計画書が手に入った」
「またまた機関長、“運良く”はないでしょう」
カケローニ先生、今度もリカ機関長の発言に食いついています。
「あら、これは船長に習って、ならず者の側に立って考察してみたんですわ」
と、ウインクしながら今度は機関長、胸を張っています。
「正体はともかく、相手はまだ盗賊初心者ってことですかね、船長」
と、ワタリノフ航海士。
「断言はできんが、空においてはまだ実績がないからね。
少なくともベテランとは呼べないだろうな」
「な~んだ、そんなに心配せんでもよかったのか」
ここにきてカケローニ先生は本来の楽天家に戻ってしまいそうです。
あわてて船長が
「先生、そう簡単に安心してもらっては困ります!」
とたしなめ、
「こちらだって武器を積んでいるわけではありません。
だいいち、相手の人数、どんな形でやってくるのかは、まったく見当も付かんのですよ」
「や、わたしとしたことが・・・。めんぼくない」
カケローニ先生は大きなからだを一生懸命縮めています。
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コメント
こんばんは
例えば、10年前にカラスとイタチ族の混合部隊が逮捕されていて、「略奪訓練中であった」という確実的な事実があるとすれば、今回の問題への分析材料となります。
ですが、確率が高くても推測の域なので前回と結びつけるほど推測に新たな推測を重ねる考察をしてしまう可能性があるような気がします。
投稿: ナカムラ | 2011年1月24日 (月) 19時29分
こんばんは。
まさにそのとおりです。
これ以上書くとストーリーがばれてしまうので、
どうぞこの先をお楽しみに!
投稿: ミム | 2011年1月25日 (火) 00時14分