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2010年12月

2010年12月31日 (金)

52-午後は自習に。

スイーティア集配員が去ったあとのキャビンでカケローニ先生は、
「ブライトン校長からわたしたちあてに便りが届いたぞ」
と、みんなにその手紙を見せました。
「わたしたちが出発してから3日後に行われた“ミノール・市民音楽祭”のことが書いてあるぞぉ」
「そうだったわね。
毎年楽しみにしてたのに、今回は冒険授業と重なったから・・・」
「うん、今年は市の記念事業と合体して、プロの演奏家たちの演奏も行われたんだよな」
「聴かれなくてちょっと残念」
「去年はぼくらの学校がコーラス部門で優勝したから、ほかの・・・・」

こどもたちが音楽祭のことを話し始めたとき、カケローニ先生がせきばらいをして
「えぇ、わたしは後でじっくり読ませてもらうから、みんなで読んでてくれ。
わたしはピット船長に呼ばれているので、これから操舵室に行ってくる」
と言って手紙を近くにいたポンゴに渡し、もう駆け足体勢に入ろうとしています。

52 「先生、午後の船内実習は?」
「あ、そうだな。
きょうの午後の船内実習は急きょ中止になったから、各自あすの計算盤の試験勉強でもやっててくれ」
そう言いながらカケローニ先生はまわり階段のところまでかけ出しかけて立ち止まり、
「あ、それから、リカ機関長もヒーゲル先生も操舵室にいるから、急用があったら呼びに来てくれ」
と付け加え、また階段を上りかけました。

みんな事情がよくわかりません。
「先生、何かあったんですか?」
というこどもたちの質問には答えず、カケローニ先生は
「あとでブライトン校長からの手紙を読むのが楽しみだな。
みんなも久しぶりにのびのびと午後の時間を楽しんでくれ」
と言い残し、操舵室までかけていってしまいました。

「またまたカケローニ式臨機応変?」
「どうしたのかしら?
とても慌ててらしたわ」
「かけ出すのはいつものことだけど、いつもの笑顔はなかったね・・・」
こどもたちはちょっと心配になりましたが、校長先生からの手紙の方が気になっていたので、とりあえずみんなで読むことにしました。

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2010年12月29日 (水)

51-集配員来る。

お昼ごはんの後片付けが終わり、こどもたちが1階のキャビンで待っていると、カケローニ先生が降りてきました。
そして自信たっぷりに、
「世界郵便の集配員が、わたしの言ったとおりさっき到着したので、これから手紙をことづけよう!
集配員はもうすぐ操舵室からこちらに来るので」
と、みんなに切手の貼り忘れや、あて名の確認をさせました。

「ハァ~イ!
世界郵便集配員のスイーティアよ」
と天井から声がしたかと思うと、
集配カバンを肩からさげたカモメの女性が、まわり階段のまわりをスイーっと舞うように飛んで降りてきました。
ワタリノフ航海士のときもそうでしたが、
「鳥族の人たちの登場はいつもこんな感じなのかしら。
わたしも一度でいいからああやって宙を舞ってみたいわ」
と、コロンやほかのこどもたちも、ちょっとうらやましい気持ちになりました。

51 「スイーティアさんがぼくらのうちに届けてくれるの?」
とトビーが質問しました。
「いまみんなからあずかった手紙は、まずわたしがみなさんの国マホロバニカの、中央郵便局に届けるの。
その先は、マホロバニカの集配員たちが手分けしてみんなのおうちに届けてくれるわ」

ヒーゲル先生やリカ機関長も、スイーティア集配員に手紙をことづけました。
スイーティアはみんなからあずかった手紙を集配カバンに収めながら、カケローニ先生に何か言いかけました。
でも、思い直し、
「だいじなお便り、わたしスイーティアが確かにあずかりました。
では、みなさんの空の旅が実り多きものとなりますように」
と言って、まわり階段の天井の穴に向かって飛びあがりました。

操舵室にもどったスイーティアはピット船長とワタリノフ航海士に、
「先ほどの件、くれぐれも用心ください」
と念を押して操舵室天井のハッチから空に向かって飛び出しました。
キャビンの窓から手をふっているこどもたちを振り返りながら、スイーティアの心は少しくもっています。
それでも笑顔を作りながら
「みんな本当に気をつけてね」
と心の中で叫び、マホロバニカに向けて飛び去っていきました。

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2010年12月27日 (月)

50-人との出会い。

「ピット船長の意見をうかがってもよろしいですか?」
「もちろんですカケローニ先生。
10年ほど前、世界を結ぶ飛行船構想ができあがったころから、実は今のような論議があったと聞いています」

三人の大人たちの会話をまとめるとこんな内容です。

1. 飛行船の運航にたずさわる船長、航海士、機関長は、世界飛行船協会に所属し特別な訓練を受け資格を取らなければならない。
2. 星から位置を知ることは訓練でできるようになるが、風を読んだり、特に、地質学者が磁力と呼ぶこの星の持っている目に見えない力を感じることは空の種族のもって生まれた能力で、陸の種族にはまねができない。
3. しかし物を作ったり、操作する能力は陸の種族の方がたけている。
4. 生息域(生きる場所)を分けながらも120年間、お互いの長所を生かして、共に歩んできた関係をこわしてはならない。
5. ごく一部には互いをへんけんの目で見る者もいるが、われわれはこれからもこの星で共に互いを尊敬しあって生きてゆき、次の世代に引き継ぎたい。

50 「わたしは陸の種族ですが、飛行膜を持っているので滑空することはできます。
しかしワタリノフ君たちのように羽ばたいて自由に飛べるわけではありません。
特に海を越える飛行には彼らの力がぜひとも必要なんです。
だけどふと思うことがあります。
彼らにとってわたしは必要なのか?と」

「ピット船長、自分は自分の能力を必要としている人たちのために使えるということがとても・・・その――照れくさいですが――嬉しいんです」

「この世に不必要な存在なんてありません。
わたしはそう信じとります。
お二人の話をうかがうことができ、この船に乗ってよかったと心から思えます。
種族だけでなく、分野の異なった職種の方々とご一緒できて、わたしもいい勉強になります」

「教育者にそんなふうに言ってもらうとちょっとくすぐったいな。
飛行船はさまざまな人を乗せる。
実は飛行船乗りになった理由の一つには、そういう“人との出会い”がわたし自身とても楽しいからなんですよ。
違うかな?ワタリノフ君」
「自分も同感です」

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2010年12月24日 (金)

Merry Christmas!

63merrychristmas2010 とても冬らしい冷たい風が朝から吹いています。

今年は雪の聖夜となるのでしょうか?

皆様素敵なクリスマスイブの夜をお過ごしください。(ミム)

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49-空の種族のこれから。

「トビー、おれはケルカーチームのみんなにあてて手紙を書くから、父さんや母さんにはお前が代表して書いてよ」
「いいよ。チームのみんなにならおれたち二人の名前で書いてくれよな」
「もちろんさ」

「だけど、なんだかんだ言って、結局1限目は予定通り社会科の授業だったね」
「ホント。カケローニ先生らしいわね」
「あれって計画的だったのかな?」
「ポンゴはどう思う?」
「成り行きじゃないかな?ねえコンラッド」
「多分ね。君が質問したんで話がそっちへ行っちゃった、てのが正解じゃない?」
「だよね」
「臨機応変、てのがカケローニ先生のお得意だから」

そのカケローニ先生は操舵室で、船長や航海士と何か話し合っています。

49 「心配にはおよびませんよ、カケローニ先生。
先ほど郵便協会の集配員が、コリマへ向けて飛ぶ途中にちょっとここに寄ってくれてね。
午後から別の集配員がここに来ると言ってましたから」
「それを聞いて安心しましたピット船長」
「午後に来るのは自分のよく知ってる集配員です。
カケローニ先生なみにフットワーク・・・・いや、ウイングワークのいいやつですよ」
「ワタリノフさんの知り合いなら心強いですな」

「自分たちも、これからの飛行船時代に備えていろいろ研究中です。
これまでの、船だけの時代のようにはいかんでしょうね」
「と言いますと?」
「もともと現在の世界郵便は、自分たち空の種族が自らのつばさだけで“運び”をやってたでしょう」
「そうですね」
「だけどこのまま飛行船時代に入ると、陸の種族だけでも海を越えた“運び”ができるようになる。
しかも一度に大量の。
するとどうなります?」
「そうか、これまで従事していた集配員が必要でなくなってしまう・・・」
「それです。
いまそのことが、自分たち空の種族のあいだで大きな話題になりつつあります」

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2010年12月22日 (水)

48-チュチュの話。

みんなの目が小さなチュチュに集まっています。

「プリマージュっていう雑誌の文通欄がきっかけで手紙のやり取りを始めました。
えーっと、わたしの場合、まず手紙を書いたらミノール中央郵便局の窓口で、世界郵便用切手を貼って海外専用ポストに入れます。
そこで集められた手紙や葉書は、えー、“普通”と“速着”に分けられ、あ、言い忘れましたが、普通と速着は切手と料金が違います。
“海外普通”は70ドングル、“海外速着”は120ドングルの切手をそれぞれ貼って、速着の場合は特に、あて名のところに“速着”と赤い字で書き添えます。
でも重さや封筒の大きさで・・・」

「チュチュ、そのあたりは料金以外国内郵便でも同じだからとばしていいよ」
とカケローニ先生。

「あ、はい。とにかく仕分けされて速着の場合は“渡り鳥急行”の職員がすぐに海を渡ってくれます。
相手の国や地域の郵便組合にいったん集められ、それから「ツバメール」などの職員があて先に届けてくれます。
わたしたちのいるアイジア地方なら直行便なので、二日もあれば相手に届くそうです。
でもフロンシェやイタロア、ロキアなどの東西ヤーロップ方面や、アメリア方面なんかはいくつも中継地を経由していくので、だいたい一週間くらいはかかると聞きました。
以上です」

「ありがとう、チュチュ」

48 「あ、もう一つ言い忘れました。
郵便局の窓口に行くと世界郵便の仕組みや料金のことなどを書いたパンフレットがおいてあるので、それを読めばよくわかると思います。
これで以上です」
普段の雑談ではなんともないのに、“話すこと”を意識して話すと、どうしてこんなにドキドキしてしまうのかしら?
いつか舞台に立つんだからもっと度胸をつけなきゃ。
チュチュはそんなことを感じながら話し終えました。

「細かい配慮ありがとう、チュチュ。
これまでのみんなの話で、世界郵便協会に関しての知識もより深まったと思う。
ところで、いま世の中は飛行船時代に向かって動いているけど、それにあわせて人や物の移動、運搬手段も変わっていくことになる。
それについてはこれからの授業で学んでいくことにして、とりあえずここに“世界郵便協会の集配人”がはたして来るかどうかだが・・・・」

カケローニ先生も本当のところ、初めてのケースなので断言できずにいます。
「一応最新のルールでは、郵便局上空を飛行する船には通信員か集配人が来ることにはなってる。
それにこの飛行船あての郵便物がある場合は、当然届けなけりゃいかんのでね」

「ま、そんなわけだから、みんな手紙を書こう!」

「先生!」
「どうしたトビー?」
「1限目が終わる時刻です」
「そうか。2限目こそ、みんなで手紙を書こう!」

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2010年12月20日 (月)

47-空の種族。

「ほかには?」
「はい!」
「よし、ハーネル」
ハーネルはコンラッドを見ながら
「おまえ肝心なところを抜かしてるぞ。
この郵便システムの一番のキモは、空の種族の存在なんだから」

ハーネルは“存在”という難しい言葉を使っている自分をちょっと誇示しながら話し始めました。
「空の種族と“手を組む前”にだって海を隔てた地域に手紙や物を送っていたんだぜ」
「ハーネル、コンラッドにではなく、わたしやみんなに話すんだ。
“いたんだぜ”はないだろ?」
「あ、そうでした。ごめんなさい」
コンラッドが小声で「ばーか」と言ったのをハーネルの耳は聞き逃しませんでしたが、いまは聞かなかったことにして続けることにしました。

47 「陸の種族は船を利用して何ヶ月もかけて郵便を運んでいましたが、空の種族、特に渡り鳥族の人たちの協力で郵便の集配がとてもじん速にできるようになりました。
いろんな国や地域、海の上では島などに支局ができ、そこを中継地として世界中にぼくたちは手紙を送り、同じように世界中から受け取ることができるようになりました」

「二人ともよく勉強したな。
もちろん小包や大きなものはいまでも船を使ってるが、手紙に関して言えば、本当に空の種族との連携なくしてはありえなかった」

今度はチュチュが手をあげました。
「わたし、フロンシェにいる女の子とバレーについて手紙のやり取りをしてます。
実際に世界郵便を使って文通しているのでよくわかります」

「そうか、ちょうどいい。せっかくだからチュチュ、みんなにそのことを話してくれないか?」

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2010年12月17日 (金)

46-世界郵便協会。

オデッセイ号は順調に飛行を続け、熱帯地方の空にさしかかっていました。

「きょうの午前中は、手紙を書くことにする」
第1限目開始早々のカケローニ先生の言葉です。

「実はきょうの昼過ぎに郵便集配の人が来るのでそれに間に合うよう、みんなご家族に便りを出してほしいんだ。
きっと心配してると思うから」
「先生、こんな空の上に、しかも飛んでいる飛行船の上に郵便の集配があるんですか?」
ポンゴが質問しました。
「もう少し先の海域にある島に“世界郵便協会”の支局があって、そこからこの飛行船に集配担当の人が来てくれることになってる・・・はずなんだ」
カケローニ先生もちょっと自信なさげのようすです。

「いい機会だから“世界郵便協会”のことについて復習してみよう。
船による――つまり海に浮かぶ船のことだけど――航海時代からあるシステムだけど、このことはみんな授業で習ったからわかるよな」

461f 「はい」「はい」「はい」
数人の手があがりました。

「コンラッド、話してごらん」
とカケローニ先生がうながしました。

「それぞれ別々に生活していた空の種族と、ぼくたち陸の種族が共同で暮らすようになったおよそ120年前に、空の種族が中心となって友好記念事業としてユーラップ地方で始まりました・・」
「はい、はい!」
「ハーネル、まだおれが話してるんだから静かにしろよ!」
「コンラッド、続けて」
というカケローニ先生のあとおしがあったので、ハーネルにアカンベーをしながらコンラッドが続けました。

「最初は陸続きの地域や国どうしの小さな事業でしたが、海を隔てた国にもその輪が広がり、今ではアメリア地方、オセバニア地方、もちろんぼくらの住んでるアイジア地方や小さな島まで郵便でやり取りができるようになっています。
以上です」

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2010年12月15日 (水)

45-父さん、母さん。

「しかし、朝から晩までびっちりのスケジュールだよな」
「授業は学校と同じだからまだいいけど、食事の準備やあとかたづけがね・・・」
「家にいるときはいつも母さんがやっててくれたから」
「きょうで一週間だけど、もうへとへと・・・」
「そうね。わたしも家で少しは手伝ってたけど、3食作るってホントに大変よね」
「毎日だからな」
「母さんてけっこう大変だったんだ・・・」
「偉大だよね」
「お洗濯もしてくれてるし」

「クルーの仕事の手伝いも勉強のうちだけど、そっちの方は変化があってまだ楽しいよな」
「うん。でも船長や航海士、機関長なんかは夜中でもけっこう仕事してて、それでいて昼間普通に働いてるぜ」
「そうだね。ぼくの父さんも仕事で遅くなっても次の日は普通に仕事してるしね」
「一日中おとなと一緒に生活する機会ってこれまでなかったから、間近で見てるとよくわかるね」
「父さんや母さんのありがたみがね」

452f 「カケローニ先生もワタリノフ航海士と交代して、たまに徹夜してるみたいよ」
「あの人はタフだからね」
「それでいて運動不足だって、寝る前に多目的室のランニング装置で走りこんでるんだぜ」
「それ、室内ランニング器“カケルマン”でしょ。
わざわざこの冒険授業付き添いのために買ったって言ってたわ」
「おれたちも使わせてもらったよな、ハーネル」
「ああ。あれはただ走るためにはいいかも知れないけど、おれたちにはな・・・・」
「“飛び跳ねる”機能が付いてないし」
「早くケルカーしたいなーー!」

「チュチュとわたしは毎晩レッスンしてるよ。
きょうもこのあとやろうね」
「ええ、おかげでからだの調子はいいわ・・・、でも・・」
「でも、なに?」
「みんながお父さんやお母さんのことを言うから、家を思い出しちゃった。
みんな元気かなぁ・・・」
「そういえばぼくの父さん、出発の少し前から風邪ひいてたけど・・・大丈夫だったのかな?」
「ばあちゃん、腰の具合が良くないって言ってたよなあ・・・」

冒険授業一週間目、夕食後のあとかたづけを終えた食堂でのひととき。
最後はちょっとホームシックなこどもたちでした。

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2010年12月13日 (月)

44-時間割。

07:00 起床
07:15 朝食準備(厨房作業)
07:45 朝食(食堂)
08:15 朝食あと片付け(厨房作業)
08:30―09:25 1限目授業(1階キャビン)
     5分休憩
09:30―10:25 2限目授業(1階キャビン)
     5分休憩
10:30―11:25 3限目授業(1階キャビン)
     5分休憩

443f 11:30 昼食準備(厨房作業) 
12:00 昼食(食堂)
12:45 昼食あと片付け(厨房作業)
13:00―13:30 30分休憩(自由時間)
13:30―16:30 舩内実習(各部署)
      随時休憩
16:30―17:00 30分休憩(自由時間)

17:30 夕食準備(厨房作業)
18:00 夕食(食堂)
19:00 夕食あと片付け(厨房作業)
19:15 自由時間(多目的室使用可) 
21:00 就寝

※シャワーは就寝前までに終えること。
※時間厳守。授業には遅れないこと。(カケローニ)

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2010年12月10日 (金)

43-ツアー終了。

普段は無口なワタリノフ航海士ですが、こどもたちを前にしてけっこうしゃべることを楽しんでいます。
ワタリノフ航海士をよく知っているピット船長は、彼の意外な一面を発見し嬉しそうです。

「そのぉー、つまり、風の流れの読み方をあやまると・・・・・」
とおしりをさすりながらポンゴが聞きました。

「さっきのように空の穴ぼこに落っこっちまうのさ。
さっきは失礼した。
言い訳はしない。
みんなあちこちからだをぶつけてしまったね。
もうしわけない。
・・・まだこのオデッセイの機構とうまくシンクロできてないようだ・・・」
最後の言葉はひとり言のようで、ほかの人には聞こえませんでした。

434f ――――ぐぅ~~~っ・・・。

みんなはいっせいにこの変な音のほうを見ました。

「いやあ、失敬、失敬。
わたしのおなかの虫だ。おはずかしい」
と顔を少し赤くしてカケローニ先生が頭をかいています。
カケローニ先生の肩の上に座っていたチュチュは、わたしじゃないからね、と手をふっています。

「や、わたしとしたことが。もうこんな時間だ。
船内見学はこのくらいにして、みんなお昼ご飯をとりたまえ」
ピット船長はみんなに向かって言ってから、ワタリノフ航海士に
「君は小さなクルーたちと食事をとりながらもう少し話をしてあげたまえ。
君もけっこう楽しそうだし、ここはしばらくわたし一人で大丈夫だから」
と、笑顔で右側の操舵席に座りました。

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2010年12月 8日 (水)

42-風の道。

「こんちは。自分は一等航海士のテツヤーノ・ワタリノフ。
渡り鳥キョクアジサシ族。
自分は自分のつばさで何度も南極に行ってるんで、安心して飛行をまかせてくれ。
ホントは自分のつばさで飛ぶ方が性にあってるけどね」

ちょっとぶっきらぼうですが経験は確かなようです。

「気流の確認ってなんですか?」
と、さっそくトビーが質問しました。
「お、君が例のお騒がせ君か」
「違いますよ。それはあっち、弟のハーネルで、
ぼくは兄のトビーです」
「そうか、そいつぁ失敬した」
「あんなガキと一緒にしないでください」
とハーネルを指さしながら不満そうに答えました。
ハーネルもすかさず
「ガキってなんだよ。お前と同じ年じゃねえか」
とトビーをにらみながら言いかえしています。

42 「よさないか二人とも。
ワタリノフ航海士に質問の最中なんだろ」
カケローニ先生のひとにらみで二人が静かになったので、先生はワタリノフ航海士にさきほどの質問の答えをうながしました。

「風の流れを肌で感じることさ」
「風の流れ?」
「そう。地上に川があるように、空の上にも目には見えないけど大小さまざまな川があってね。
大きな気流を“空の大河”って呼んでる。
風、つまり空気の流れる道を見つけ出し、そこにうまく飛行船を乗せなきゃならない。
流れは季節やその付近の地形なんかで変化するからやっかいでね」

「気流って見えるんですか?」
とトビー。
「水の流れのように目には見えないから、直接自分の肌で感じるようにするんだ。
自分たち“空の種族”はもともと風の流れを読んで生きてきたからね。
特に渡り鳥族は大河をよく知ってるのさ」

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2010年12月 6日 (月)

41-操舵室。

飛行船オデッセイはペンギンの形をしています。
そして操舵室はペンギンの頭の部分にあります。
胴体部分にあるキャビンや動力室などとくらべるととても狭く、全員が入るとほとんど身動きがとれません。
二人分以上場所をとるカケローニ先生はまさに肩身が狭く、縮こまりながらチュチュを自分の肩に乗せています。

「すまんなぁ。しばらくがまんしてくれ。
一応副航海士としては立ち会っておきたいからな」

操舵席はペンギンの目玉の部分、左右それぞれにあって、右側に船長がすわり、左側に一等航海士が座ることになっていますが、一等航海士の姿がありません。

「あまりにもきゅうくつなので逃げ出したかな?
というのは冗談で、そこで気流の確認をしているよ」
と、ピット船長が操舵室の天井を指差しました。

4100 操舵室中央の床から延びたパイプのようなものの上にイスが付いていて、そこに誰かが座っています。
天井のハッチが跳ね上げられ、そこから飛行船の外に顔を出しているのが一等航海士のようです。

「ワタリノフ君、状況は?」
「高度1000エダット、乾いた南よりの風、風速第3レベル。
現在、マホロバニカ東海岸の南端、サクラ岬上空を時速120ミキロで航行中。
これより本土上空を離れ、外洋上空に向かいます」

「うむ、予定通りだ。
そろそろこちらに戻ってくれたまえ。
小さなクルーたちがお待ちかねだ」

さっきまでにこやかにこどもたちに応対していた船長がまじめな顔になり、てきぱきととしたやり取りをしているのを見て、みんなは少し気持ちがひきしまりました。

床から延びたパイプのようなものがイスごと下に下りてくるのかと思ったら、天井のハッチをしめた一等航海士が突然イスから飛び出しました。
狭い操舵室の中を器用に舞い、そして一瞬で左側の操舵席に座ってしまいました。
みんなは――――カケローニ先生も含め、目を丸くしています。

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2010年12月 3日 (金)

40-空中での生活。

「おや、“お騒がせコンビ”がもどってきたぞ」
トビーは双子の弟ハーネルのことが心配でしたが、照れくさいのでついこんな口をきいてしまいます。
いつものハーネルなら言い返すのですが、なぜかこのときはコンラッドといっしょに
「みんなごめんよ、心配かけて」
と、すなおにあやまりました。
なので、そんな口をきいたトビーのほうが、かえって照れくさくなってしまいました。

「みんな動力室の見学は楽しかったかな?
“少しばかり”アクシデントもあったらしいが、有意義な体験だったと確信しているよ」
と船長は“少しばかり”のところを強調して、操舵室にあがる階段の前でこどもたちを出迎えました。

「うまく船が風に乗ったようですね」
とカケローニ先生が言ったとたん、突然飛行船全体が大きく揺れました。

「うわーっ!」
ポンゴが床に倒れ通路を転がっていきましたが、船の揺れはすぐに治まりました。
「大丈夫か?」
カケローニ先生は、すばやくポンゴのところにかけ出して抱き起こしました。
こういうときのカケローニ先生のすばやさはさすがだわ、と壁に寄りかかりながらコロンは感心しました。
ほかのみんなも壁におでこをぶつけたり、しりもちをついたりしましたが、けがはありません。
こどもたちは初めての経験で不安な顔をしていますが、船長は何ごともなかったかのように平然としています。

「少し気流の乱れがあったようだ」

40 「飛行船が落っこちちゃうのぉ?」
もどってきたポンゴが少し震えながら船長にたずねました。
「そんなことはないよ。安心したまえ。
最初に説明をしておかなかった私が悪い。
驚かせてしまったね。
空気の流れに乱れがあると、ときどきこんなことがあるんだ。
みんなが里山で乗っている犬引車(けんいんしゃ)も、道に穴ぼこがあったり、石の上に乗り上げたりすると大きく揺れることがあるね。
あれと同じだと思ってくれ」

「船長、“少しばかりの”アクシデントでしたので、有意義な体験になりました」
と、ハーネルはここぞとばかりに答えました。
「これは一本とられてしまったな。
さっそく操舵室に行くことにしよう」

こどもたちは、地上にいるときとは違う環境なんだということがだんだんわかってきました。

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