39-白ヒゲ。
「それからどうなったの?」
コンラッドは自分の骨折に重ねあわせ、先が聞きたくなってきました。
ハーネルもヒーゲル先生の顔を見ながらしんけんに聞いています。
「そのときたまたま隣の街から往診に来ていた医者がおっての。
ひん死のわしを救ってくだされた。
イワヤギ族のイワ・ジンジュツ先生。
白いヒゲが印象的なりっぱなかたじゃった。
けがから回復したとき、わしはジンジュツ先生のような医者になろうと決心し、この道に進んだんじゃ。
その日から、白いヒゲはわしにとって憧れのシンボルとなった。
じゃから“白ヒゲ”と呼ばれるのはわしにとっては光栄なことなんじゃ」
ヒーゲル先生は二人の顔を見ていますが、その目は二人をとおりこし、どこか遠くを見ているようでした。
「君らは何になりたい?」
ヒーゲル先生が突然二人に質問しました。
ハーネルは、
「ケルカー選手です」
コンラッドは、
「まだ決めてません・・・」
と答えました。
「そうか、今すぐ決めることもなかろうが、いずれ本当に自分の進むべき道が見つかる。
そのときのためにからだをいとうことじゃ」
「いとう?」
「愛し、だいじにすることじゃ。
でないと、目標に向かって進めんじゃろう」
そのときとびらをノックし、カケローニ先生が入ってきました。
「よぉー、無事に生き返ったか。
これからみんなで操舵室に移るところだけど、二人とも行けそうか?」
カケローニ先生は二人をわざわざ迎えに来てくれたのでした。
ヒーゲル先生はハーネルとコンラッドの目や口の中をのぞきこんだり、手首の脈をとったり、おでこに手を当てたりしてから、
「よし。もうだいじょうぶじゃ」
と言って二人の肩をぽんとたたきました。
そしてカケローニ先生にだまってうなずきました。
ハーネルとコンラッドは、部屋を出るときヒーゲル先生が自分たちに向かってウインクしたような気がしました。
二人はこれからもヒーゲル先生のことを“白ヒゲ”と呼びますが、これまでとはまったく違う気持ちで呼ぶようになりました。
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