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2010年11月

2010年11月29日 (月)

39-白ヒゲ。

「それからどうなったの?」
コンラッドは自分の骨折に重ねあわせ、先が聞きたくなってきました。
ハーネルもヒーゲル先生の顔を見ながらしんけんに聞いています。

「そのときたまたま隣の街から往診に来ていた医者がおっての。
ひん死のわしを救ってくだされた。
イワヤギ族のイワ・ジンジュツ先生。
白いヒゲが印象的なりっぱなかたじゃった。
けがから回復したとき、わしはジンジュツ先生のような医者になろうと決心し、この道に進んだんじゃ。
その日から、白いヒゲはわしにとって憧れのシンボルとなった。
じゃから“白ヒゲ”と呼ばれるのはわしにとっては光栄なことなんじゃ」

ヒーゲル先生は二人の顔を見ていますが、その目は二人をとおりこし、どこか遠くを見ているようでした。

39 「君らは何になりたい?」
ヒーゲル先生が突然二人に質問しました。

ハーネルは、
「ケルカー選手です」
コンラッドは、
「まだ決めてません・・・」
と答えました。

「そうか、今すぐ決めることもなかろうが、いずれ本当に自分の進むべき道が見つかる。
そのときのためにからだをいとうことじゃ」

「いとう?」
「愛し、だいじにすることじゃ。
でないと、目標に向かって進めんじゃろう」

そのときとびらをノックし、カケローニ先生が入ってきました。
「よぉー、無事に生き返ったか。
これからみんなで操舵室に移るところだけど、二人とも行けそうか?」

カケローニ先生は二人をわざわざ迎えに来てくれたのでした。

ヒーゲル先生はハーネルとコンラッドの目や口の中をのぞきこんだり、手首の脈をとったり、おでこに手を当てたりしてから、
「よし。もうだいじょうぶじゃ」
と言って二人の肩をぽんとたたきました。
そしてカケローニ先生にだまってうなずきました。

ハーネルとコンラッドは、部屋を出るときヒーゲル先生が自分たちに向かってウインクしたような気がしました。
二人はこれからもヒーゲル先生のことを“白ヒゲ”と呼びますが、これまでとはまったく違う気持ちで呼ぶようになりました。

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2010年11月26日 (金)

38-ヒーゲル少年。

ベッドの端にこしかけながらコンラッドが
「おい、さっきはなぜ笑ったんだ」
とハーネルの耳に口を寄せて聞きました。
「おれの耳はそんなに口を近づけなくったってよく聞こえるんだ。
あとで話してやるよ」

それを聞いていたヒーゲル先生は二人に話しかけました。
「みんながわしのことを“白ヒゲ”と呼んでおることは知っておる。
わしのひげは何色かな?」
「し、白いです」とコンラッド。
「そのとおり、白いヒゲじゃ。
白いヒゲを白ヒゲと呼ぶのは間違いではないからな」

ヒーゲル先生は自慢の白いヒゲを手でなでながら話を続けます。
「もともとわしらカモシカやイワヤギ族は“けわし山”がふるさとじゃ。
今わしらが住んどる里山地区から北の方に見える山じゃ。
里山と違ってほとんどが岩場での。
若いころはわざわざ急斜面を選んでかけまわって遊んだもんじゃ」

38 ハーネルとコンラッドは、白ヒゲ、いえヒーゲル先生がどうしてこんな話をするのかわかりませんでしたが、まだからだがだるいのでおとなしく聞いています。

「山のてっぺん近くはあまりに坂が急で危険地帯じゃから、大人たちからは決して行かないようにと注意されておった。
行くな、と言われれば行きたくなるのが人情じゃ。
特に若いうちはな」

ハーネルもコンラッドもうんうんとうなずいています。

「あんのじょう、危険地帯をかけおりたわしは10エダットも進まんうちに不安定な岩に足を乗せ、転げ落ちて、全身骨折の大けがじゃ。
わしの両親は、骨折がひどくてもう助からんと医者から言われての。
そう式の準備までしたと聞いておる」

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2010年11月22日 (月)

37-医務室で。

――――何か白いものが見える・・・・。
ボーとかすんでるけど、見おぼえあるぞ。
白い、ヒゲ?
「あ、白ヒゲ、じゃなかった、ヒーゲル先生」

「おー、気が付いたようじゃな、ハーネル」
「す、すみません。つい・・・」
「かまわんさ。
気分はどうじゃ?吐き気はないかな?」
ヒーゲル先生がハーネルの寝ているベッドに近づきながら言いました。

「あのぉ、どうしてぼくはここにいるんでしょう?
浮きガスを吸って、からだが浮き上がって、また落っこちて・・・そこまではおぼえていますが」
「やれやれ、おぼえておらんのか。
カケローニ先生が君ら二人を介抱(かいほう)して、この医務室に運んでくれたんじゃよ」

37 「あ、だんだん思い出してきました。
船内見学ツアーの途中だった!
動力室のあとはどうなったんでしょう?」

「水天道や巨大金魚ばちの中の説明のあと、4階部にあがって浮きガスの樹の幹の見学と説明・・・
うむ、もうそろそろ操舵室に移るころじゃな」
ヒーゲル先生はいつものように懐中時計を見ながら答えました。

「えーっ。
4階部はすっごく楽しみにしてたのに・・・」
「4階部も金魚ばちも、どこにも行きやせんよ。
この船に乗っておるかぎり、いつでも行けるさ。
おー、コンラッドも目がさめたようじゃな。
気分はどうじゃ?」

「あ、白ヒ・・、じゃなかった、ヒーゲル先生。
「まだ少し頭がふらふらしますが、もう平気です」

ハーネルとヒーゲル先生が顔を見合わせて笑い出しました。
「何がそんなにおかしいんだよぉ」

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2010年11月19日 (金)

36-教室でのお父さん。

ヒーゲル先生は二人をしばらく壁ぎわで休ませました。
コロンたちはハーネルとコンラッドにあきれながらも、やはり二人のことが心配です。

カケローニ先生が怖い顔でぶつぶつ言いながら二人の前にやってきました。
「やれやれ、出発そうそうこのさわぎ。先が思いやられる・・・」
ハーネルとコンラッドは黙ってしゅんとしています。

「気分はどうだ?
めまいがおさまるまで先生が付いててやるから安心しろ」
そう言ってふらつく二人を自分の両脇にかかえてささえました。

36 てっきり大目玉をくらうのかと覚悟していた二人は驚き、涙をこぼしました。
あとになってトビーはハーネルに、おまえの涙を初めて見たぞと言ったそうです。
安心したのか二人は静かに眼を閉じ、カケローニ先生の腕の中で眠っていきました。

ヒーゲル先生は、カケローニ先生の人気の秘密がわかった気がしました。
そしてブライトン校長が、カケローニ先生を代行に選んだわけも。

「きっと彼なら冒険教室で、りっぱな父親役もこなしてくれることじゃろう」

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2010年11月15日 (月)

35-浮きガスのチカラ。

声は天井の方から聞こえました。
ハーネルとコンラッドはわざとマスクをはずしてしまったようです。
二人が風船のようにぷかぷかっと天井あたりを漂っています。

「もしガスを吸ったら?あんなふうになってしまうのよ」
リカ機関長はチュチュに向かって答えました。
「だからまちがってもこの部屋ではマスクを取らないように、よい子は注意しましょうね」

「早くおろひてよーっ」
二人は空中で手足をばたばたさせています。
「まずマスクをきちんとつけるんじゃ!」
ヒーゲル先生が指示をしました。

35 カケローニ先生はちょっと心配になってきました。
「吸い込んでもたいした害はないって聞いてますが、大丈夫でしょうか?ヒーゲル先生」
「臨床実験でも別段これといって問題になるような症例は報告されとらんがね。
しいて言えば、こどもの場合多少めいてい状態になることじゃな」
「めいてい・・・酔っ払いですか?」
「さよう。
吸い込んだ量にもよるが、まああのくらいなら1時間ほどでさめるじゃろ。
そうですな、リカ機関長」
「ええ、わたしの場合も10分ほどで酔いがさめましたわ、うふ」
「え、リカ機関長も吸い込んだのでありますか?」
カケローニ先生が驚いています。
「当然ですわ、研究者として。
おかげでこういう“緊急事態”に直面したとき、あわてたりせずに対処できましたし」
「じゃヒーゲル先生も・・・」
「医者として当然のことじゃ。
カケローニ君、君も後学のために一度は吸っておきたまえ」
「わたしは・・・酒が飲めませんから・・・」
「何かかん違いしとらんかね?これは酒ではないぞ」
「そ、そうでした」

「早くおろひてってば~っ」
ろれつの回らない声がひびきます。

「足がとどいたら、壁でも天井でもけとばしなさい。
あまり強くけとば・・・・」
リカ機関長が言い終わらないうちにハーネルが得意のキック力で天井をけってしまい、すごい勢いで床に頭を打ちつけ、はずみでまた天井に戻ってしまいました。
「さっきといい、君は人の話を最後まで聞かないタイプね。
もっと加減してけるのよ」

足の骨折から回復したばかりのコンラッドは、そのゆるいキックが効果的で、宙返りのおまけまでつけて、よろけながらも床に降り立ちました。
「たらいまもどりまひたぁ」
床には立ちましたが、その目はまだ宙を泳いでいます。
コンラッドがふらつきながらあいさつをするのをながめて、ハーネルは空中でとても悔しがりました。

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2010年11月10日 (水)

34-初めての出会い。

「空気より軽い気体、わたしたちは“浮きガス”と呼んでいますが、それをあの小さい方のミツボカズラの口、パイプのようなところから出しています。
そして呼吸している間は根の部分がああやって光るのよ」
それはこどもたちが初めて目にした、とても幻想的で、美しい光景です。

34 「里山で見るヒカリゴケやホタルもきれいだけど、こうして水の中で光ってる樹ってすてきね」
コロンをはじめ女の子たちはうっとりと水そうをながめています。
男の子たちの方は、水そうの中を泳ぐ魚の方に興味があるようです。
自分たちの住んでいるところにある川や池では一度も見たことのない、色とりどりの魚が優雅に泳いでいます。
水そうの底にはエビもいます。
よく見ると巻貝のようなものもへばりついています。

「じゃこの部屋の中は、その浮きガスでいっぱいってことですか?」
おとなしいポンゴがたずねました。

「そのとおり。もちろん害はないわ。
色も、においもないから気づかないけど」

「でも、そんなガスがいっぱいつまった部屋にいて、どうしてぼくらは浮かばないの?」
またまた理科好きのポンゴが質問しています。
機関長は光る根について説明したいのですが、なかなか前に進めません。

「いい質問ね。
わたしたちのからだを持ち上げるより早く上にあがってしまうからよ。
安心しなさい。
ガスを吸いこまないかぎりは心配いらないわ」

「もしマスクが外れてガスを吸っちゃたら?」
今度はチュチュが心配そうにたずねたそのとき、

「わーっ!たすけてー!」

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2010年11月 8日 (月)

ささやかな収穫祭。

10110801b プランターに分家したサツマイモ(アシカ)に、小さな小さなサツマイモができました。

10110802 サツマイモの収穫時期は9月末から10月中旬にかけてとのことで、プランターを恐る恐る掘り起こしてみました。
土植にした時期が本来の時期から2ヶ月近く遅かったのであまり期待はしていませんでしたが、こんなにかわいいイモができていてびっくりです。
もう少しあとに掘り起こしたら、ひょっとしてもっと育ったのかしらんと思いつつ、外気温も下がってきたのでいたしかたなしです。

10110803 収穫直後にさっそく蒸してみました。
スイートポテトのようにとてもやわらかく(口の中でとろけるほどでした)、味はしっかりサツマイモでした。
甘みが若干少なめなのは成長不良のためかもしれません。

5月10日に水盤に入れ、10月30日に収穫。
プランターも更地に返し、アシカ分家の観察日記をここに終了します。

10110804 蛇足ですが、これまで葉っぱを食べていた虫の存在を確認できずにいましたが、刈り取った葉に、けっこうでかい青虫が付いていました。

10110805 室内のアシカ、見附島はイモ盆栽としていまだ健在です。
葉も枯れての黄変ではなく、立派に紅葉していて部屋の中にまだ秋がいます。(ミム)

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2010年11月 4日 (木)

33-水中のお日さま。

「その金魚ばちは南の島にだけ育つオオミツボカズラ、またはジャイアント・ハニーポットとよばれる植物です」

「わたしのうちにそれの小さいのが、それに比べれば、ごく小さいのがあります。
こんなに大きなものを見たのは初めてだわ」
とコロンが言いました。

「そうね、ミツボカズラはもともとその中に蜜がたまるので、みんなのうちにもきっとあるわね。
つまり蜜つぼ、って呼んでいたものが名前の由来よ。
つぼの部分が大きくふくらんで透きとおってくるので、ジャムなんかの保存用にも使ってるでしょ」

「中に入ってる光ってる樹は?
樹、ですよね、水の中にはえていますが」

「水天道という樹よ」
「スイテンドウ?」
「水の中のおてんとうさま。
つまりお日さまね。
このお日さまの部分は根っこで、幹はこのずっと上、天井を通りこして4階部に伸びてるの」

「でっかいなぁ・・・・」

33 リカ機関長の説明が続きます。
「植物も呼吸をしていて、わたしたちになくてはならない酸素を作り出していることは学校でもう習ったわね。
この樹もとうぜん呼吸をしますが、ほかの植物と違って、酸素とは別の気体を出すの」

「別の気体って?」
とトビーが口をはさみます。
「黙って聞きなさいよ、順番に説明してくださるんだから」
とコロン。

「ここがいちばん肝心なところで、この飛行船が飛行船でいられる“秘密”なのよ」
みんな、早くその先を聞きたくてたまりません。

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2010年11月 1日 (月)

32-巨大な金魚ばち。

最初のとびらの向こうにある部屋はとてもせまく2、3人入るのがやっとでした。
まずケミストン機関長が入り、次にトビーとハーネルがきっちりマスクをつけ、最初のとびらをぴったり閉じてから第2の扉を開け、動力室にに入っていきました。

ちょっと怖くなったコロンとチュチュは、けっきょく最後にヒーゲル先生といっしょに入ることにしました。
ヒーゲル先生が最初のとびらを開けると、奥のとびらの向こうからみんなの興奮した声が聞こえてきました。
第2のとびらは思い切ってコロンが開けると、思いがけない光景が目の前にあらわれました。

32 動力室、つまり3階部の天井までとどく巨大な金魚ばちが部屋の真ん中にあって、その中には見慣れない魚がたくさん泳いでいたのです。
部屋には窓がないためうす暗いのですが、金魚ばちのまわりだけは明るくなっています。
いえ、よく見ると金魚ばちの中にある大きな植物・・・・樹?が光っているようです。

「ケミストン機関長、ちと待たせてしもうたな。
これで全員じゃ」

「ヒーゲル先生、そしてみなさん、これからはケミストンではなくリカ機関長と呼んでください。
さて、みなさんはいま、きっとこう思っているはずです。
動力室なのに、部屋の中にあるのは大きな水そうと、変なパイプのような植物。
船の動力なんてないじゃん、って」

「ちょっと違います。でかい金魚ばちです」
とトビー。
「まったくそのとおりだよ。
キツネにつままれた気分・・・・」
とハーネルが言うと、コンラッドが
「ホント、ウサギにけとばされた気分だな!」
とやり返しました。

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